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言葉の意味を使い切るということ。

俳句の図書室
俳句と短歌は間違えられやすい。575なのが俳句で、57577なのが短歌。季語が(原則)必要なのが俳句で、必要ないのが短歌。「一句」と数えるのが俳句で、「一首」と数えるのが短歌だ。

私は短歌をかれこれ10年やっている。俳句も短歌もやらない人から見れば、短歌が詠めるなら俳句だってできるだろうと思うかもしれないが、そうではない。両者は全然ちがう。短歌は(曲がりなりにも)詠むし読むが、俳句のことはさっぱりわからないのだ。くやしい。

そういうわけで俳句の入門書を遠巻きに見る毎日なのだが、今回夏の文庫フェア「カドフェス」に本書が登録されていたので、思い切って読むことにした。コラボ企画もあるよ。

勝手にコラボ企画「カドフェス2018」を制覇するぜ!!

俳句や短歌は短い。だから言葉の意味を最大限に使い切る。「カエル」という言葉が出てきたら、「カエルか」と読み流してはいけない。その言葉は、およそ私たちが「カエル」という言葉で連想することができるあらゆる意味を含むように使われている。たとえば、「梅雨」「跳ぶ」「はねる」「舌がのびる」「アマガエルは好まれるがガマガエルは嫌われがち」「花札に出てくる」など。

すぐれた作者は、そのイメージを巧みに切り取ったり、これまでのイメージを踏まえつつ新しい息吹を吹き込んだり、今まで誰も見たことがない光景を作りだしたりすることができる。それが楽しさなのだが、読みとるのはなかなか難しい。

本書はたいへん親切で、そのような言葉の使い方を過不足なく説明してくれている。たとえばこんなかんじ。


虫の声月よりこぼれ地に満ちぬ(富安風生)

常識でいうと、虫たちは地面や草の上で鳴いているので、月で鳴いているなんて決してあり得ないわけです。しかし、虫の声に耳を澄ましていると、地面から立ちのぼって中空で響いているように聞こえてきます。そこに月光が差していると、まるで月から虫の声がこぼれ落ちてくるように思えたのでしょう。その声が地面に広がって満ちていると感じ取った作者の聴覚、そして見えないものを見ようとする詩的な視覚が働いた句といえます。


どうだろう。なるほどーという感じではないだろうか。私も短歌を始めたころはこういう、言葉の意味を使い切るやり方が難しくて、本書のような解説付きの本をずいぶん読んだものである。そうやって読んで(そして自分でも作って)いるうちに、すこしずつ短歌の言葉の使い方を覚えていったのだ。俳句はまだ難しいが、せっかく豊かな世界が広がっているのだから覚えていきたい。あなたもよければ俳句の世界に親しんでみませんか?

  • 掲載日:2018/06/11
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この書評へのコメント

  1. ぽんきち2018-06-11 10:21

    以前、雑誌の企画連載で、歌人の東直子さんと俳人の神野紗希さんが、毎月お題に沿って、互いに俳句や短歌で語り合うという記事がありました。歌人の俳句、俳人の短歌、よくわからないながら、楽しく読んでいました。

    将棋の名手がチェスを指したりするのと似てるのかなーと思ったりします。

    ・・・このうち、どれもできない私が思うのも何ですが(^^;)。

  2. 篠田くらげ2018-06-11 10:44

    おお!そんな企画があったんですね。短歌をやる俳人、俳句をやる歌人、どちらもいますけど、両方とても得意という人は珍しいみたいです。

  3. 風竜胆2018-06-11 18:31

    確か、俳句の後ろに「それにつけても 金の欲しさよ」とつければ短歌になるとか落語で聞いたような記憶がありますw
    俳句の場合は「〇〇〇〇や 根岸の里の 詫び住まい」とすればいいとかw
    すると短歌をつくるためには、「〇〇〇〇や 根岸の里の 詫び住まい それにつけても 金の欲しさよ」と最初の4文字だけ考えればいいww

  4. はるほん2018-06-11 22:08

    誰(たれ)もこの あはれ短き 玉の緒に
     それにつけても 金の欲しさよ

    ああ、それなりになりますねw(台無しだよ!)

  5. 風竜胆2018-06-11 22:45

    ↑もうひとつ「古池や 蛙飛び込む水の音 それにつけても 金の欲しさよ」
    「やせ蛙 負けるな一茶 これにあり それにつけても 金の欲しさよ」
    なんとなく様になる?
    でも山頭火などの自由律俳句は?
    「烏鳴いて 私も一人 それにつけても 金の欲しさよ」 う~ん、字数は別にして、なんだか哀れな感じが・・・w

  6. 篠田くらげ2018-06-11 23:08

    金の欲しさは人類普遍の真理ですからね……。

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