タイトル通り、デパートを発明した話。とても面白い。
現代の商売の基本である「価値創造」は、このときに始まったのか!と思えるくらいに面白い。
1830年、パリに「マガザン・ド・ヌヴォテ」という小売店が出現した。
歩道整備、乗合馬車の運行開始というパリ街区の環境変化が後押しして、遠方からも客がどっと押し寄せた。当時の買い物といえば、地元の店舗に行き、丁々発止の値引き交渉やツケ売りをするのが常識であったが、「マガザン・ド・ヌヴォテ」 は交渉不要の正価・現金売りという画期的な分かりやすさで受け入れられて、瞬く間にチェーン展開を果たした。
不特定多数相手の商売なのだからツケ売りしないのは必然だが、その代わりに現金決済のメリットを生かした「値引き」と、「返品対応」を提供して安心して買い物ができる仕組みを作り上げた。
ここまでが前置きで、
1852年、「マガザン・ド・ヌヴォテ」の一店舗を譲り受けて誕生した世界初のデパート「ボン・マルシェ」が本書の主役である。誠実をモットーに小売業界を席巻し、1877年に世界最大の小売店になった伝説のデパートだ。
創業者のアイデアがすごい。
・薄利多売を発明した。良いものをより安く売る。
・バーゲンを発明した。流行遅れの商品を回転させる。
・大売出しを発明した。閑散期をてこ入れして事業を平準化する。
・目玉商品を発明した。大売出しの値引きを実力以上に強調し、全ての商品が奉仕価格だと思わせる効果を狙う。
大売出しのやり方が徹底的だ。
当時は洗濯事情が悪かったため、白い生地が贅沢の象徴だったという。ワイシャツ、ブラウス、下着、シーツ、タオル、テーブルクロスを全館に展示し、デパートを白一色に染めた。その名も「エクスポジョシオン・ド・ブラン」。博覧会のようなイメージだ。もう買わずにはいられない。
デパート建築がすごい。
大劇場か大寺院を思わせる豪華な正面入り口。
中に入るとエントランスホールは鉄骨を駆使した吹き抜けの広い空間で、ガラス張りの大きな天井から陽光が降り注ぐ。白地の布を滝のように垂らし、魅力的な商品を陳列すれば、ご婦人たちがエントランスで立ち止まり、たちまち大混雑する。入り口はまるで巡礼者が列をなす素敵な場所になり、誰もが仲間に加わりたくなる。
お得な商品、魅惑的な空間の力でついつい必要以上の買い物を誘う手法。
さらに贅沢品をラインナップすることで「ボン・マルシェ」は大きく飛躍した。
贅沢品を買うには勇気がいる。何か言い訳が欲しい。
そこで、アッパー階級の社交マナーを満たすための「必須アイテム」というステータスを贅沢品に刷り込んだのだ。
奥様は夫や家族のために、自身をマナーアップしなければならない。と言って階級にふさわしい買い物をする。
贅沢品を買ってもらうターゲットは、アッパー階級に憧れている新興中産階級だ。
かくして、中産階級にライフスタイルを売る仕組みが発明された。
意外なところで副作用があった。万引きである。
しかも富裕層までもが万引きに手を染めていたというのだから、デパートの役割がお得なお買い物から、憧れのライフスタイル実現にシフトした証左だろう。
発明はまだまだ続く。
・女性を取り込む、綺麗なトイレ
・子どもを取り込む、楽しい絵葉書
・遠方の客を取り込む、カタログ通販
制度改革も資本主義の先端を走る。
・ゲルト制と呼ばれる歩合給制度 ― スタッフには売上連動の給与を、役員には利益連動の給与を施した。事業拡大と儲けの綱引きを実践させたのだ。
・持ち株社員制度
発明はさらにさらに続く。最後の最後まで面白い。
現代にも受け継がれる小売ノウハウがこのころに出来上がっていたことに驚いてしまう。しかも、ひとつひとつが当時の世相を反映した戦略なのだ。このデパートを発明したブシコー夫妻は時代を読む最高のビジネスリーダーと言えよう。
現代のデパートが発明したことは何があるだろう、と考えてみた。
・外商
・デパ地下(実に楽しい)
・在庫リスクをメーカーにも負わせる消化仕入れ
・仕入れから販売まで、まるごと任せるテナント店舗
いつの世も、 デパートは新しい何かをもたらしてくれる博覧会場であってほしい。
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