『呪いのウサギ』 チョン・ボラ著 関谷敦子訳を読む。
訳者あとがきによると、著者は「2020年の「ブッカ―国際賞」の最終候補に、韓国人作家で初めて選出された」そうだ。「ブッカ―賞のサイトをのぞくと、「魔術的リアリズム、ホラー、SFの境界線をあいまいにする、ジャンルを超えた短編集」とある」あ、言いたいことを書かれてしまった。こんな感じ。5篇紹介。
『呪いのウサギ』
祖父の友人は代々酒造りをしていた。ところが、競合会社の卑劣なデマ情報などで業績が傾く。挙句に友人は自殺してしまった。シャーマンの家系に生まれた祖父は、怒りと復讐の念を込めてウサギを作る。競合会社内に放たれた多数のウサギたちは、書類などの紙という紙をかじる、かじる。税務調査が入っても、肝心の書類は食べられてしまってない。会社は倒産。経営者一族は不幸のどん底へ。
『頭』
彼女がトイレで排泄物を流そうとしたら、「お母さん」と呼ぶ声がする。なんと排泄物だった。「頭」と名乗る。薄気味悪くて流した。しかし、頭は排泄するたびに現れる。やがて頭は体を持つ。ゴーレムは土や粘土からの人造人間だが、頭は彼女の排泄物などでできた人造人間。垢から生まれたこんび太郎もいるし。「お母さん」と入れ替わるラストが不気味。誰だ、名前は雲子だとかいうヤツは?
『月のもの』
キム・ヨンランはなかなか生理が終わらず、産婦人科を受診する。ストレスが原因かもと避妊薬を処方される。避妊薬を飲み続けた副作用なのか、なぜか、妊娠した。セックスもしていないのに。彼女はなぜか父親を探しはじめる。父親候補たちのろくでもないことときたら。不条理系フェミニズムSF。
『さようなら、愛しい人』
旧型パートナーロボット「1号」を愛でる女性。開発にも参加していた。家にはセスとデレク、2台の最新型ロボットがいる。しかし、1号の日々起動は遅くなる。充電も途中で止まる。劣化を食い止めようとあの手この手を尽くすが。彼女は突然、刺される。部屋にはロボットしかいない。『ブレードランナー』のオマージュか。人形愛、ピグマリオン・コンプレックスがテーマ。
『罠』
男の罠にかかったキツネ。血が流れているのかと思ったら、金だった。男はキツネの金で大金持ちに。3年後、妻を娶り、豪邸を建てる。拘束されていたキツネは衰弱して死ぬ。その毛皮を襟巻にして妻に贈る。男児と女児の双子が生まれる。息子がケガをした。なんと黄金色の血がにじむ。それから変異が起きる。キツネの復讐という民話風作品。
『再会』
冬のポーランドが舞台。女性はホットワインを飲み、広場に座る。脚の不自由な老人を見かける。なのに、驚くべき速さで移動する。その光景を目撃した男は祖父を思い出すと。大学図書館でその男と再会する。男のアパートへ行くと縛ってほしいと懇願される。苦心して緊縛した後、祖父について語りだす。彼はナチス強制収容所の生存者だった。ヌーヴォーロマンを彷彿とさせる。多和田葉子の書くドイツとなんとなく印象が重なる。
訳者あとがきで
「著者に影響を与えた7冊の本」が紹介されている。
(1)ペーター・ホゥ『スミラの雪の感覚』
(2)アンドレイ・プラトーノフ『土台穴』
(3)ブルーノ・ヤシェンスキー『I Burn Paris』(邦訳なし)
(4)スタニスワ・レム『エデン』
(5)A&B・ストルガツスキー『ストーカー』
(6)ブルーノ・シュルツ『肉桂色の店』
(7)オルガ・トカルチュク『House of Day, House of Night』(邦訳なし)」
なんとなくその影響度合いがうかがえる。(2)は、著者自身が韓国語に翻訳したとか。
(7)は、随分前に邦訳が出ている。「『昼の家、夜の家』 小椋彩 訳 白水社、エクス・リブリス」。些末ながら。
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