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モーリス・センダックの『かいじゅうたちのいるところ』を連想させる絵本ですが、ちょっと「リアル」なのが、不思議な印象を与えます。

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!1級
まほうのこぐま
1933年にエジプト生まれで今はイギリスで暮らしているペネロペ・ライヴリー(本書ではペネロープ・リベリー)は、最近知った英文学者のなかでは、お気に入りの一人です。特にブッカー賞を取った『ムーンタイガー』(1987年)は素晴らしいと思いますが、児童文学から執筆活動を始めた作家で、1995年刊のこの絵本は彼女が文を書き、オーストラリア生まれの絵本作家ジャン・オームロッド(1946-2013、本書ではジャン・オーメッド)が絵を描いたものです。お話は、こんな風に始まります。

「あるひ ジョーが めをさますと
 ベッドのそばに にひきの こぐまがいました。
 こぐまは おとうさんにも おかあさんにも みえません。
 こぐまといっしょに ベッドのなかで あそんでいたら、
 ほーらね。ジョーも こぐまに なってしまいました。
 そのとき おかあさんが はいってきて、
 『あらまあ、ベッドが めちゃくちゃ。
 さあ、もうおしまい。あさごはんですよ』」

ジョーは、それから家の中で、こぐまたちと遊びます。「きのぼりが すき」なこぐまと一緒に、ジョーは家の中の木で遊びます。でも、おとうさんがやってくると、こぐまは「たいへんだ。きをしまわなくちゃ!」と言って、木を片づけます。おとうさんはその後にやってきて「このはっぱ、いったいどこから おちてきたんだい?」と思います。

次に、こぐまたちは部屋の中に雪を降らせます。ジョーも一緒に遊びますが、おかあさんがやってくると、こぐまは「たいへんだ。ゆきを しまわなくちゃ。いそげ!」と言って、雪を片づけます。おかあさんはその後にやってきて「あら?どうしてこのへや、こんなにさむいのかしら」と不思議がります。

こぐまたちは、この後も、川を出したり、くまのほらあなを出したり、ジョーと楽しく遊びます。おとうさんとおかあさんは、川やほらあなの痕跡は見つけるのですが、ジョーとこぐまたちはうまく逃げ回って、尻尾をつかませないのでした。


さて、これはいったいどういうお話なのでしょうか?読んでいて連想したのはモーリス・センダック(1928-2016)の『かいじゅうたちのいるところ』(1964年)でした。あれは、'wild thing!'とおかあさんに怒られた主人公の少年マックスの部屋に木が生えてきて、同じ'wild things'「かいじゅうたち」のいるところへ冒険に出かける話で、内容についてはいろいろな解釈が可能ではあるのですが、基本的には夢ネタの話だと理解しています。これに対し、本書は夢ネタのようでいて、おとうさんとおかあさんの世界が象徴する現実との接点が多く、これが不思議な印象を与えます。つまり、半「リアル」な印象を受けるのです。さらにちょっと気になるのは、描写がジョーの家の中に限られていて、外が描かれていないため、家が田舎にあるのか都会にあるのかさっぱり分からないことです。田舎の家ならば、葉が家の中に落ちていたり、寒い部屋があったり、水がちょっとこぼれていたりしても、なんら不思議はないでしょう。お話の基本が、そういう田舎の少年の夢想とも解釈できるのですが、都会にある家だとすると、ちょっと不思議な雰囲気、不気味と言ってもいいような話になってしまうのです。おまけに、イギリスには熊はいないのです。

というわけで、ちょっと頭が混乱する話に仕上がっているのですが、こういう物の見方自体が、既におとうさんとおかあさんの世界のもので、主人公のジョーの世界のものではないな、とも思います。こぐまと遊びたがるような年齢の子どもから、この話をどう読むのかを教えてもらった方が、面白い発見がありそうな絵本でした。可愛らしいこぐまの絵も、子どもには好まれるのではないでしょうか。


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  • 掲載日:2026/04/19
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