角川系列の小説投稿サイト「カクヨム」のコンテスト受賞作。こちら、何年も部門として設けられていながら受賞作なしだった「映画・映像化賞」で佳作を受賞しており(その後映像化賞がなくなったため唯一の受賞作となった)、カクヨム物書き界隈をざわつかせたことをよく覚えている。
本作のジャンルを一言で言うならば、「百合ホラー×幻想小説」だ。夢か現かはっきりしない場面がいくつか登場するのだが、情景の描写が丁寧かつ美しい。web小説発の作品というよりは一般文芸に近いと感じる。また、物語の軸は主人公・琴子とヒロイン睡蓮の互いを想う気持ちである。睡蓮が内実共に浮世離れしているためにホラーでありながら、怖さよりも美しさの印象が強く残る。
それは睡蓮が引き起す怪奇を琴子が「怖がってはいけない」と考えているのも理由のひとつだろう。琴子は怖いものをまっとうに怖がることができる人間だが、他方で人の美しさ、優しさには人一倍敏感だ。怖い現象を見聞きしてもおびえて縮こまるだけではなく、それを引き起こしているモノの感情にまで思いを馳せることができる。そんな彼女が主人公だったからこそ、本作で生じる悲劇は生まれ、その後の救済へと繋がっていったのだろう。
本作に登場する怪奇現象のスケールは大きいが、極めて個人的な願いから生じている。その点が、本書を「百合」小説たらしめていると思う。女同士は肉体的に結ばれないという、生物的な理を超えても傍にいたい。その力が本作の登場人物たちを突き動かしていると感じた。性的な描写はほとんどないが、「愛」とは何かを強く突き付けてくる物語である。もし、睡蓮が男性だったらここまでのカタルシスは生まれなかったのではないだろうか。
web小説発作品の可能性を感じると同時に、「百合」ジャンルの存在意義をも感じる作品だった。
(書評執筆日:2025年12月27日)
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