『白樫の樹の下で』で松本清張賞を受賞したのち、第一作目の作品。
この小説は江戸幕府が成立して、200年ほどたった頃を物語にしている。当然幕府は常在戦場という番方中心の軍事体制を敷くが、この時代になれば武士、武力が最も重要という時代ではなくなり、飢饉や藩財政への対応政治力が重要な時代に移行していて、藩行政を司る役方が重要な時代になっていた。
主人公は柳原藩四万石で執政を務める阿部重秀。執政は家老、中老に次ぐ3番目の重職。当時藩は番方で無用な武士をたくさん抱え、これという産業もなく、財政がひっ迫していた。重秀は、いろんな産業を興し藩財政をうるおす施策やアイデアをだし、先頭にたって実行してゆく。これは、厳しい仕事で、もし失敗でもすると、切腹を命じられ、いつも死と隣り合わせの状態でいる。事実、このころは、番方の武士は安泰なのだが、役方の武士が亡くなることが多かった。
重秀は、その中で懸命に働き成果を出し続け、今や60歳になり、もう役をやめる決意をしている。
この重秀、22年前妻民江が駆け落ちをする。重秀は2人を追いかけ、間男は殺害するが民江は消えろと言って逃してあげる。更に、一人娘の理津まで駆け落ちをしてしまう。
どうして、母娘は駆け落ちをしたのか。その真相が後半明らかにされる。これが、現代に住んでいる私にはなかなかすっと理解ができない。
愛する夫や父が毎日死と隣り合わせで極度の緊張の中、必死に藩のために働いている。
夫や父を死なせたくないという強い思いが駆け落ちにつながる。駆け落ちをして逃げれば、その間父や夫は、重圧から解放されて生き続けることができるから。
すごいよ。こんなことを考え出す青山文平は。
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