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ゆうちゃん
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キングズマーカム近郊にバイパスが建設されることになり反対運動が始まる。町は騒然とし、5名の市民が誘拐され、ある団体が建設撤回をしなければ人質の命はないと言う。その中にはウェクスフォードの妻ドーラもいた
ウェクスフォード主任警部シリーズ第十七作目。

キングズマーカム近郊に高速道路のバイパス建設の計画が持ち上がった。キングズマーカム近郊は自然が豊かで、固有種なども生息し、学者や環境保護団体は反対の声を上げる。地元でも反対する団体が結成されウェクスフォードの妻ドーラや次女シーラはその運動に加わる。因みにウェクスフォード自身は、心情的には反対、保守的なバーデン警部は建設に賛成である。しかし、それらの団体にはプロの活動家も混じりはじめ、中には暴力行為も行う者が出て、町は不穏な状況である。
9月1日、ウェクスフォードの次女シーラが女児を出産した。長女シルヴィアには既に男の子がいるが、次女贔屓のウェクスフォードには嬉しい孫である。ドーラは、ウェクスフォードの土産を手に9月3日にコンテンポラリー・カーと言う会社のタクシーでキングズマーカム駅に向かった。その日コンテンポラリー・カーでは10時頃に覆面強盗があり、受付嬢は縛られ、別室に監禁された。受付嬢の話では、犯人たちは暫く事務所に居たらしい。多少のお金は盗まれたが、そもそも事務所に多額の現金はなく、警察では強盗目的ではないと考えていた。
ドーラはロンドンに住むシーラの家に向かった後に行方不明になる。その他、祖母ピーボディ夫人の許に滞在していたライアン少年、モデルのオーディションのためにロンドンに向かった若い女性ロクサーヌ、フィレンツェ旅行のため空港に向かったストラッサー夫妻の行方がわからなくなる。共通点は、コンテンポラリー・カーを使ったことだった。ここでコンテンポラリー・カーを占拠した覆面の男たちの目的がわかった。彼らは、事務所でタクシーの配車の電話に応対し、偽の車を差し回しては乗客を誘拐していったのだった。キングズマーカム・クーリエ紙と言う地元の週刊新聞の編集長の許に「セイクリッド・グローブ」を名乗る団体から人質を預かっていると言う手紙が届く。これはミッド・サセックス州警察本部警察長モンタギュー・ライダーが登場する重要案件だ。彼は、ウェクスフォードの妻が人質に含まれているにも関わらず、余人を以て代えがたいと言う理由でウェクスフォードをこの事件の捜査責任者にした。キングズマーカム署はもとより、地域犯罪捜査部からの応援も得て、大規模な捜査本部が設置された。警察では、被害者の家に逆探知機を取り付けた。しかし、セイクリッド・グローブが電話をかけてきたのは意表を突くバーデン警部の家だった。バーデンの妻のジェニーが内容をメモした。要求はまず高速道路建設の停止の表明をマスコミにすることだった。最終的には政府による建設撤回の声明である。そうしないと人質を殺すと言っている。そんな要求が通る筈がない。ウェクスフォードは妻のドーラの身を案じながら捜査を進めることになる。

プロットをかなり大胆に変えた作品。まずウェクスフォード・シリーズと言えば殺人事件であるが、これが本書で起きないとは言わないが・・・。
それとウェクスフォードの家族が事件に巻き込まれる点。僕自身は、警察官や探偵の家族が巻き込まれる事件と言うのはあまり評価しない。きっと事件解決と家族の無事というハッピー・エンドになるだろうし、それで主人公の喜ぶ姿を見ても、キャラクターの「目的外使用」のように思えるからだ。著者はそういう大団円を外してきた構成にしているのだが、そうすることで実は途中から話に緊迫感がなくなってしまう。そして、レンデル色を象徴する「異常心理」の登場人物は、本書で言えば動物保護に執心するブレンダン・ロイアルを始めとする数人なのだが、小粒になってしまった感がある。
早川のポケミスは1頁2段組と言う構成で一概に文庫本と頁数は比較できない。しかし、本書はポケミスで400頁もある作品であり、「惨劇のヴェール」以降の長大化は引き継いでいる。登場人物も初期の作品と比較すると倍では済まないほど増えているが、プロット構成は長大化も登場人物の多さもあまり活かせていない。
ウェクスフォード・シリーズは、前作「シミソラ」から失業や人種と社会問題を取り入れている。本書の場合は自然保護である。キングズマーカム近郊では自然が豊かでフラムハーストの村やチェリントン・フォレストなどはこれまでも多くの作品に良い舞台を提供してきた。ところが本書の社会的なテーマ、自然保護がどう描かれているかと言えば、前向きとは言えない。登場する自然保護論者たちは、過激で、道理に合わない主張をする戯画となっており、残念ながら彼らに共感は得られない感じがする。そうだとすれば、なぜこれをテーマにしたのか、いささか疑問に思える。
なお、「眠れる森の惨劇」から登場したフリーボーン副本部長は建設現場の視察者として名前が出るが、全く陰が薄くなった。その代わり本書から登場するライダー本部長がウェクスフォードにあれこれと指示をする。同じ作品に登場したカレン・マハライドは本作で部長刑事に昇進したばかりとなっており、前作に続き順当な出世をしている。「シミソラ」に登場した市会議員候補者アヌーク・クーリ(本書ではホーリと訳されている)もほんのチョイ役的に建設現場視察の場面で登場する。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1689 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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