ゆうちゃんさん
レビュアー:
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イリノイ州グリーン・タウンでのダグラスとトムのひと夏のあれこれ。彼らは夏にもかかわらず、別れや死、老いを感じる。だが少年らしいみずみずしい感覚は失わない。
レイ・ブラッドベリは「火星年代記」や「華氏451度」で知られるSF作家とのことだが、僕はこの本しか読んだことがない。どちらかと言うと普通の小説か、ファンタジー的な作品である。
主人公はイリノイ州グリーン・タウンに住むダグラスとその弟トム。彼らは6月のある日、おじいちゃんの指示でたんぽぽを摘み、たんぽぽのお酒をつくり、瓶に詰める。夏は6月から始まり、7月、8月と3カ月続くが、どうやら夏の間、月初めにこの行事があるらしい。そしてこの夏、ダグラスはグリーン・タウンで色々な体験をする。テニス靴を買ってもらえず、靴屋のおじいさんにアルバイトをさせてもらい、それで手に入れた。それから黄色いメモ帳を買い、夏に起きたことと、それに対する自分の感想を書き込むことにした。アウフマンさんに幸福マシンを作って欲しいと頼み、失敗させてしまったこと。 「機械の中に居れば幸福かもしれない。だが降りたとたんに現実、生活が待っている(83頁)」。アウフマンさんはそれを知って 「人生で最初に学ぶべきは自分が馬鹿だということだ」と嘆く。ベントレー夫人は72歳。彼女に若い頃があったと少女たちに語って聞かせても信じない。彼女は年老いてからグリーン・タウンに引っ越してきたので、誰も彼女の若い頃を知らない。とうとう彼女は自分に「若かったことなんてない」と悟った。 「自分の子供時代は過ぎてしまい、何者もそれを取り戻すことはできない(105頁)」。フリーリー大佐は過去を語るタイム・マシンだった。彼は若い頃に見た奇術、南北戦争のことを語る。しかしとうとう彼は亡くなってしまった。彼が死んでしまうことで、ダグラスは過去がごっそり失われることを知る。そして、 「どこかで聞いた話、これまで話されたすべての話、歌われてきたすべての歌が未だに生きていて、振動しながら宇宙に出てきている(197頁)」と信じたいと思った。この夏、市電は廃線となった。運転士のトリデンさんは、子供たちを最後にピクニックに連れて行ってくれる。ダグラスの親友ジョンの引っ越し。ジョンの父の転勤のためだった。最後に皆で石像ごっこをする。誰も動いてはいけない。しかしジョンは行かねばならなかった。エルマイラ・ブラウンは忍冬婦人会の支部長の座をクララ・グッドウォータと争う。それをトムは見ていた。写真のヘレン・ルーミスに惚れたのは、ダグラスとトムの祖父のところに下宿人している青年ビル・フォレスターだった。しかしルーミスは95歳の老嬢。若い頃に結婚を逃してしまった。フォレスターはそれでも彼女の孤独な旅の話に聞き入る。フランシーン、ヘレンそれに気の強い若い娘ラヴィニアの三人はある晩、映画を見に行く。途中、町を二分する渓谷で友人のエリザベスの死体を見つけても。三人の娘は人の死に立ち会う「孤独の人」のことを思い浮かべる。ダグラスとトムのおおおばあちゃんの死、蝋人形のマダム・タローの救出作戦と続く。
どんな逸話にもダグラスかトムが狂言回しのように姿を現す。ベントレー夫人を馬鹿にする少女たちにはトムが、夜も遅くに三人の娘が映画に行く時にはダグラスが。夏と言えば楽しい行事がたくさんある。しかし、この物語で少年たちが知るのは、死や別れ、そして老いである。その結果、ダグラスは夏の終わりに高熱を出してしまった。 「人によってはとても若い頃から悲しい気持ちに沈んでしまうものなんだよ」。こうしてダグラスとトムの夏は過ぎ去ってゆく。しかし、少年たちは少し悲しい夏を過ごしても、妙に大人びる訳でもない。少年は少年のまま、1歳だけ歳を取っただけだ。大きな成長を感じさせない点がこの小説の良さのように感じた。
過去に拘る大人が多数登場するこの話は少年向けなのだろうか?自分はこの小説も中学生の時のラジオドラマで知り、原作を買って読んだのも大学生の時だった。多分その頃はこの小説の良さなどわからなかっただろう。こうして年代を経て本書を手にすると、主人公の少年たちが一層、いとおしく思えてくる。そんなに慌てて大人にならなくても良い。過去は自然と積み重なってゆくものだ。そして再読の楽しさをまた味合わせてもらった。
主人公はイリノイ州グリーン・タウンに住むダグラスとその弟トム。彼らは6月のある日、おじいちゃんの指示でたんぽぽを摘み、たんぽぽのお酒をつくり、瓶に詰める。夏は6月から始まり、7月、8月と3カ月続くが、どうやら夏の間、月初めにこの行事があるらしい。そしてこの夏、ダグラスはグリーン・タウンで色々な体験をする。テニス靴を買ってもらえず、靴屋のおじいさんにアルバイトをさせてもらい、それで手に入れた。それから黄色いメモ帳を買い、夏に起きたことと、それに対する自分の感想を書き込むことにした。アウフマンさんに幸福マシンを作って欲しいと頼み、失敗させてしまったこと。 「機械の中に居れば幸福かもしれない。だが降りたとたんに現実、生活が待っている(83頁)」。アウフマンさんはそれを知って 「人生で最初に学ぶべきは自分が馬鹿だということだ」と嘆く。ベントレー夫人は72歳。彼女に若い頃があったと少女たちに語って聞かせても信じない。彼女は年老いてからグリーン・タウンに引っ越してきたので、誰も彼女の若い頃を知らない。とうとう彼女は自分に「若かったことなんてない」と悟った。 「自分の子供時代は過ぎてしまい、何者もそれを取り戻すことはできない(105頁)」。フリーリー大佐は過去を語るタイム・マシンだった。彼は若い頃に見た奇術、南北戦争のことを語る。しかしとうとう彼は亡くなってしまった。彼が死んでしまうことで、ダグラスは過去がごっそり失われることを知る。そして、 「どこかで聞いた話、これまで話されたすべての話、歌われてきたすべての歌が未だに生きていて、振動しながら宇宙に出てきている(197頁)」と信じたいと思った。この夏、市電は廃線となった。運転士のトリデンさんは、子供たちを最後にピクニックに連れて行ってくれる。ダグラスの親友ジョンの引っ越し。ジョンの父の転勤のためだった。最後に皆で石像ごっこをする。誰も動いてはいけない。しかしジョンは行かねばならなかった。エルマイラ・ブラウンは忍冬婦人会の支部長の座をクララ・グッドウォータと争う。それをトムは見ていた。写真のヘレン・ルーミスに惚れたのは、ダグラスとトムの祖父のところに下宿人している青年ビル・フォレスターだった。しかしルーミスは95歳の老嬢。若い頃に結婚を逃してしまった。フォレスターはそれでも彼女の孤独な旅の話に聞き入る。フランシーン、ヘレンそれに気の強い若い娘ラヴィニアの三人はある晩、映画を見に行く。途中、町を二分する渓谷で友人のエリザベスの死体を見つけても。三人の娘は人の死に立ち会う「孤独の人」のことを思い浮かべる。ダグラスとトムのおおおばあちゃんの死、蝋人形のマダム・タローの救出作戦と続く。
どんな逸話にもダグラスかトムが狂言回しのように姿を現す。ベントレー夫人を馬鹿にする少女たちにはトムが、夜も遅くに三人の娘が映画に行く時にはダグラスが。夏と言えば楽しい行事がたくさんある。しかし、この物語で少年たちが知るのは、死や別れ、そして老いである。その結果、ダグラスは夏の終わりに高熱を出してしまった。 「人によってはとても若い頃から悲しい気持ちに沈んでしまうものなんだよ」。こうしてダグラスとトムの夏は過ぎ去ってゆく。しかし、少年たちは少し悲しい夏を過ごしても、妙に大人びる訳でもない。少年は少年のまま、1歳だけ歳を取っただけだ。大きな成長を感じさせない点がこの小説の良さのように感じた。
過去に拘る大人が多数登場するこの話は少年向けなのだろうか?自分はこの小説も中学生の時のラジオドラマで知り、原作を買って読んだのも大学生の時だった。多分その頃はこの小説の良さなどわからなかっただろう。こうして年代を経て本書を手にすると、主人公の少年たちが一層、いとおしく思えてくる。そんなに慌てて大人にならなくても良い。過去は自然と積み重なってゆくものだ。そして再読の楽しさをまた味合わせてもらった。
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神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。
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- 出版社:晶文社
- ページ数:405
- ISBN:9784794912411
- 発売日:1997年08月01日
- 価格:1890円
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