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ゆうちゃん
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白鯨を捕えることに執念を燃やすエイハブ船長が指揮するピークォド号は、喜望峰を回り、インド洋、スンダ海峡を経て日本沖に至る。そして、最後の三章で白鯨との死闘が演じられる。
自分の脚を噛みちぎった大抹香鯨の白鯨(モービィ・ディック)を追う事に執念を燃やすエイハブ船長が指揮するピークォド号の航跡。語り手は乗組員のイシュメールである。

下巻では、喜望峰から先、インド洋からスンダ海峡を抜け、西から台湾を目指し、日本沖に出てから南下して赤道付近に至るという航跡である。そこが白鯨の常在の餌場だった。途中、ジェロボウム号、処女号、薔薇の蕾号、サミュエル・エンダービィ号、バチェラァ号、レーチェル号、歓喜号と出会う。捕鯨船同士は出会うとガムと呼ばれる船員同士の歓待を行うのが普通だが、ピークォド号がそれを行ったのはわずかエンダービィ号だけだった。エイハブ船長は出会う船ごとにモービィ・ディックの行方を聞くが、その消息が知られるのは、ようやく日本沖に出て南下を始め、レーチェル号と出会ってからである。その前にピークォド号は、台風に遭い、マストの先には聖エルモの火もみられた。乗員は不吉な予感に囚われる。船には更に種々の凶事が持ち上がり、スターバックは、、エイハブ船長にこれまでの成果に満足してナンタケットに帰ろうと説得するが、エイハブ船長は翻意しない。そして白鯨の常在餌場で、ピークォド号とエイハブ船長は、白鯨と三日間の死闘を繰り広げる。

語り手イシュメールの講釈は下巻でも相変わらず続く。鯨の絵の話など本筋と全く関係ない講釈もあるが、下巻の主な講釈は、捕った鯨の解体や保管、処理方法や銛や槍などの道具などについてである。捕獲後の鯨の解体も工程ごとに章を変え、詳しく論じているが、ここは図が欲しいな、と思ったところ(正直、読んで解体方法が全部わかった訳ではない)。

下巻を読んでも上巻で得た好印象は全く変わらない。下巻の前半こそ講釈は多いが、読んでいて西洋人は捕った鯨をどうするのか?と言う疑問が募り、上手く応えてくれた感じ。後世への記録として重要であるし、本筋と無関係と切る訳にもいかないと思う。本書は、神の化身とも言える白鯨に人間エイハブが挑んだ話である一方で、アメリカの捕鯨という一つの世界を描いたとも考えられる。

この本を読むと19世紀中頃まで欧米で捕鯨が盛んだったことがわかる。アメリカが一番盛んだったようだが、本書ではイギリス船(エンダービィ号)やドイツ船(処女号)、フランス船(薔薇の蕾号)も登場する。しかも、イシュメールの講釈から、鯨を捕って売るのは脂だけだと聞いて驚いた(本書によれば、脂を樽に詰めてしまえば、他は殆ど捨ててしまう)。少なくとも僕が小学生の頃(1970年代前半)には日常の食卓に鯨の肉が上がった。子供向けの百科事典でも捕鯨の項目があり、歯から骨から、何もかも使って捨てる部分がない、と書かれていた。捕鯨とは世界中でそういうものだと思って読んだので、欧米の鯨の処理方法は驚いた。メルヴィルは鯨資源にも考察をしていて、これだけ捕っても数も多いし海も広いから、絶滅することはないと言っている。これがアメリカ文学の名作であると知ると、隔世の観がある。

本書はキリスト教や拝火教とも関連がある。一見、航海を主題にした小説のように思えるが、出港の地であるナンタケットで聞いたマップル牧師の説教から、末尾の方ではまるで戯曲のように語るエイハブ船長の考え、白鯨観まで首尾一貫した宗教観が貫かれている。この辺りも読みどころだと思った。

僕はグレゴリー・ペックがエイハブ船長を演じた本書の映画化作品を観ているが、さすがに最後の章は本より映像の方が迫力満点だった。映画を観て本書を読む場合、結末はちょっと物足りないと言うかあっけなく感じるかもしれない。本書をもし忠実に映画するのなら、グレゴリー・ペックはエイハブ船長を演じなかっただろう。映画の最後は本書の最終章の色々な場面をエイハブ船長に集約し、原作の世界観を壊さないようにかつドラマチックに仕上げているのではないかと思う。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1678 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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