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ゆうちゃん
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モームの太平洋の島を舞台にした短編三つを収める。オチが利いている選りすぐりの短編でいずれも男女の愛情が絡む話である。ではあるが、なかなか皮肉な結末でもある。
久々にモームの短編集を読んでみた。新潮社から10巻以上のモーム短編集が出ているが、これはその第1巻目で「雨」「赤毛」「ホノルル」の三篇を収める。いずれも南洋物と言われる太平洋の島を舞台にした話である。

「雨」は軍医のマクフェイル博士の目から見たデイヴィドソン夫妻の行動。彼らは夫婦ともども宣教師だった。マクフェイル夫妻とデイヴィドソン夫妻は、船中で知り合ったのだが、訪問先で疫病の流行があり、パゴパゴと言う島に足止めされる。ここにはホテルが無くある商人の家に泊めてもらう。そこにはミス・トムソンと言う派手な女性も同宿するが、ダンス、音楽、そして部屋に男を引っ張り込むとデイヴィドソンにすれば許せない行動をとる。マクフェイル博士は、放っておけばよいと思うのだがデイヴィドソンは総督にまで話をつけ、ミス・トムソンをアメリカに送り返す手はずを整えた。最初はデイヴィドソンに罵声を浴びせていたミス・トムソンは改心をして殊勝に振舞う。だがミス・トムソンを送り返す船が着く前の晩にある事件が起きる。
「赤毛」はある珊瑚礁の島に住むニールソンと言う男を商業船の船長が訪ね、ニールソンから島に因む男女の物語を聞かされると言う話である。船長はでっぷりと太った男でニールソンは話をしながらもそれが気に障る。ニールソンの話と言うのは、英国の軍艦から脱走した美丈夫で赤毛の青年が島の美しい娘に恋をし、結ばれると言う内容だった。しかし、その青年は1年後に島の近くに来た英国の商船に半ば強引に連れ去られてしまう。娘は悲しんだが、話の結末でわかる青年の正体の意外さ。
「ホノルル」はハワイのホノルルで私が聞くバトラー船長の物語である。

全体で150頁ほどの短編集であり、それほどの分量ではない。角川から出ていた「手紙」と言うモームの短編を2年ほど前に読んだが、それもマレー半島が舞台であり、英国本土の話ではない。モーム自身はこうした南洋を舞台にした物語を幾つか書いている(「月と六ペンス」が一番が有名かもしれない)。10巻以上ある短編集の最初の一冊だから選りすぐりの作品を持ってきたと思われる。なるほど、「雨」と「赤毛」は話の展開、結末の意外さ、そして天候や場所が醸し出す雰囲気と揃っている。特に「雨」は、戦場でも逃げ腰、面倒なことは嫌いと言う軍医マクフェイル博士の性格に基づく行動が、徐々に変化してゆく様子も物語に興趣を添え、なかなか芸が細かいと思った。
「ホノルル」は、あれこれ前振りが長い割には、バトラー船長の語る話はあまり大したことはないのだが、それでも意外なオチをつけていて、話の凡庸さをカバーしている。さすがモームと思わせる短編である。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1683 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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