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ぽんきち
レビュアー:
原爆前後の広島を「俯瞰」する
科学絵本。
文の那須正幹は「ズッコケ三人組」シリーズで知られる児童文学作家である。広島生まれ、3歳の頃に被爆している。自身は軽傷であったが、原爆のことはずっと心の中にあり、広島に住む人から原爆について書いてほしいという話もあった。原爆に関する児童書は数多くあったが、個人の被爆体験に基づくものが多く、全貌を描くものではないように思われた。どんな形で書くのがよいのか。迷いの中で、科学絵本『ぼくらの地図旅行』の仕事で組んだ西村繁男の絵を見て、これだ、とピンときた。街を俯瞰する鳥瞰図である。
西村は広島出身ではないが、長く広島の原爆に関心を抱いており、被爆者との交流もあった。編集者から那須の意向を聞き、乗り気になる。
被爆者であるが、さまざまな資料から原爆を客観的・多角的に捉えようとする那須。
証言者を訪ね歩き、戦前戦後の広島の姿を具体的に立ち上がらせようとする西村。
そして両者をつなぐ編集者。
3つの力で結実したのが本書である。

戦前の広島の賑やかな様子。戦時中の徐々に抑圧されていくさま。そして原爆投下直後。焼けただれた街。そこから復興へ向かう街並み。
地上の人たちが何をしているかわかるくらいの少し上空から、街の様子が細密に描き出される。広島はきれいな街、川ではエビや魚も取れ、温暖で住みやすいところだったという。馬車で荷物を運ぶ人、にぎやかな店先、チンチン電車。学生や女高生、子供たち、親子連れ。のどかな街並み。それが地獄絵図と化す。
俯瞰図の合間には、原爆の基本知識の解説も織り込まれる。原理や開発の歴史、広島に投下されたリトル・ボーイと長崎に投下されたファット・マンの図解。熱風・爆風・放射線のデータ。放射線障害について。原爆投下後の核を巡る世界の動きの年表。
巻末には、俯瞰図の詳しい解説も付く。その中には数多くの証言も含まれる。
初版は1995年だが、その後、新たにわかった知識に基づき、絵の差し替えや新たな注の付記なども行われている。

表紙にも描かれているが、絵の上を1人の少年が飛ぶ。
あの日、広島で生きていた多くの人が突然に命を奪われた。その魂はどこへ行っただろう。

広島と原爆を客観的に俯瞰しつつ、しかしやはり客観的という枠には入りきらない原爆の怖ろしさも響いてくる。力作。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1826 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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