休蔵さん
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関ケ原の翌年の世界地図。当時の日本とヨーロッパとでは見ていた世界が違っていたようです。そして、明とも。
1602年、明朝において1つの世界地図が製作された。
「坤輿万国全図」である。
イタリア人のイエズス会宣教師であるマテオ・リッチによるものである。
この世界地図の特徴は、当初ヨーロッパ中心のものしか存在しなかった世界地図界にはじめて登場したアジア中心視点の地図という点にある。
日本人におなじみの構図だ。
世界史の教科書にも登場した(今の教科書は知らないけど、20~30年前のものには掲載)この世界地図の写本が、実は日本国内に数点存在するという。
本書は岡山県岡山市にある林原美術館という私立美術館が所有する1点を紹介する。
単なる紹介ではなく、いくつかの試みがなさている。
試みの1つは高精細デジタル化である。
この試みにより、本物をいちいち取り出さなくても、現地で毎回じっくり熟覧せずとも詳細な観察が可能になった。
モノの劣化をいたずらに進行させることはないし、遠方においての資料調査も可能にし、ものすごく重要な取り組みと感じる。
もちろん、まったく実物を熟覧しない研究などあり得ないと思うけど、気軽に何度も観察することも許されないと思う。
高精細デジタル化は、研究の進歩に大きく貢献するとともに、多くの人にとって気軽な観察が可能にした。
試みの2つ目は完全日本語訳である。
「坤輿万国全図」には、さまざまな解説が漢語で墨書されている。
地図全般の解説から個々の地域解説など、その墨書は多岐に及ぶ。
ちなみに日本の解説もあり、当時の日本観が見えて面白い。
ただ、すべてをきちんと把握できているわけではもちろんなく、所々おかしなところもある。
諸外国のことはよく分からないけど、日本においての間違いはすぐに分かって、それはそれで面白い。
例えば、北海道の部分にいまの石川県である「加賀」や新潟県の「佐渡」が見える。
四国は南海海として、「阿波」、「伊予」「土佐」に加えて現在の和歌山県の「紀伊」と兵庫県の「淡路」と墨書されていて、現在の香川県である「讃岐」という書き込みはない。
さらに、今の大阪府あたりには「薩摩」の文字が。
ある程度国名は知られていても、それがどこにあるのかは曖昧なようだ。
美術館が所有する美術品を、いつ何時でも自由に見学できるわけではない。
美術品の保存のためには、常に表に出しておくわけにはいかないはずだ。
だから、たまにテーマを定めた企画展が開催され、テーマに則したものであれば観覧することができるということになる。
でも、高精細のデジタル化は、本物とは言えないものの、そのものの詳細を高精細画像で観察することができる。
本書の最後にはQRコードが掲載されており、高精細画に飛びつけるようになっている。
多くの人が高精細画像で「坤輿万国全図」を観察できるが、きっと本物を見てみたくなるはず。
本書がきっかけとなって林原美術館を訪れる人も出てくるはず。
本書の試みは、収蔵品の公開の新しい方策の1つであり、その延長で美術館訪問者も増やすことに繋がると考える。
ぜひ、多くの美術館でも試行してもらいたい。
「坤輿万国全図」である。
イタリア人のイエズス会宣教師であるマテオ・リッチによるものである。
この世界地図の特徴は、当初ヨーロッパ中心のものしか存在しなかった世界地図界にはじめて登場したアジア中心視点の地図という点にある。
日本人におなじみの構図だ。
世界史の教科書にも登場した(今の教科書は知らないけど、20~30年前のものには掲載)この世界地図の写本が、実は日本国内に数点存在するという。
本書は岡山県岡山市にある林原美術館という私立美術館が所有する1点を紹介する。
単なる紹介ではなく、いくつかの試みがなさている。
試みの1つは高精細デジタル化である。
この試みにより、本物をいちいち取り出さなくても、現地で毎回じっくり熟覧せずとも詳細な観察が可能になった。
モノの劣化をいたずらに進行させることはないし、遠方においての資料調査も可能にし、ものすごく重要な取り組みと感じる。
もちろん、まったく実物を熟覧しない研究などあり得ないと思うけど、気軽に何度も観察することも許されないと思う。
高精細デジタル化は、研究の進歩に大きく貢献するとともに、多くの人にとって気軽な観察が可能にした。
試みの2つ目は完全日本語訳である。
「坤輿万国全図」には、さまざまな解説が漢語で墨書されている。
地図全般の解説から個々の地域解説など、その墨書は多岐に及ぶ。
ちなみに日本の解説もあり、当時の日本観が見えて面白い。
ただ、すべてをきちんと把握できているわけではもちろんなく、所々おかしなところもある。
諸外国のことはよく分からないけど、日本においての間違いはすぐに分かって、それはそれで面白い。
例えば、北海道の部分にいまの石川県である「加賀」や新潟県の「佐渡」が見える。
四国は南海海として、「阿波」、「伊予」「土佐」に加えて現在の和歌山県の「紀伊」と兵庫県の「淡路」と墨書されていて、現在の香川県である「讃岐」という書き込みはない。
さらに、今の大阪府あたりには「薩摩」の文字が。
ある程度国名は知られていても、それがどこにあるのかは曖昧なようだ。
美術館が所有する美術品を、いつ何時でも自由に見学できるわけではない。
美術品の保存のためには、常に表に出しておくわけにはいかないはずだ。
だから、たまにテーマを定めた企画展が開催され、テーマに則したものであれば観覧することができるということになる。
でも、高精細のデジタル化は、本物とは言えないものの、そのものの詳細を高精細画像で観察することができる。
本書の最後にはQRコードが掲載されており、高精細画に飛びつけるようになっている。
多くの人が高精細画像で「坤輿万国全図」を観察できるが、きっと本物を見てみたくなるはず。
本書がきっかけとなって林原美術館を訪れる人も出てくるはず。
本書の試みは、収蔵品の公開の新しい方策の1つであり、その延長で美術館訪問者も増やすことに繋がると考える。
ぜひ、多くの美術館でも試行してもらいたい。
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ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
それでも、まだ偏り気味。
いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい!
この書評へのコメント
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- ページ数:0
- ISBN:9784866451848
- 発売日:2021年04月08日
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