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たけぞう
レビュアー:
正論という名の暴力。
正論と信念は、似ているようで全然違います。
通読して一番感じた言葉です。

図書館の新刊情報で、出版社名が共和国と書いてあったことが目を引き、
書誌情報を確認して手に取りました。
素晴らしい作品は、やはり何かを発信しているのですね。
読了後、こころにとても深く刻み込まれました。

共和国は一人出版社です。一人は結構あるみたいですね。
一人じゃなくてもこだわりのある小さい出版社はあり、
知られていない良作を発行していることがあります。
そして、こんな出会いがあると、宝物を見つけた気分になります。

この作品は第二次世界大戦を生き延びた
フランス人青年の生きざまを描いています。
著者は、ロシア領のヴィリア(現リトアニア国ヴィリニュス)に生まれ、
ドイツに占領されて共和国化され、ポーランド領になり、
十四才の時に母とともに国を離れてフランスに移住した人です。

そのフランスもヒトラーに占領されてドイツ領になり、
著者はレジスタンス運動に身を投じます。
その時に共闘したのが、ロンドンに逃げていたシャルル・ドゴールです。
ドゴールと親交を持ち、大戦後は外交官に任用され、
並行して小説家としても活躍しました。

この作品は著者の遺作です。
途中までノンフィクションで書いていたのですが、
行き詰って創作にまとめ直したのです。
だからなのでしょう。
作品のあちこちに著者の経験が色濃く反映されていることが
びんびん伝わってきます。

リュド・フルリ。主人公です。
伯父は手作りの凧職人で、凧の芸術性と偏屈な人柄で知られた人です。
本業は郵便配達人です。
リュドは三ツ星レストランのクロ・ジョリで働きながら、
休みの日には伯父の凧作りに顔を出しています。
どこにでもある日常です。

リュドが子どもの頃のことです。
リュドの前に、信じられないくらい美しくて、持て余すくらい夢見がちな
少女が現れます。ポーランド貴族のブロニキ家の娘でリラと言いました。
リラとは一日会っただけで、その後に四年がたちました。
ブロニキ家の本邸はワルシャワにあり、リュドの住むフランスの
ノルマンディーにあったのは、ジャールの屋敷と呼ばれる別宅だったのです。

リュドには、美点であり、かつ欠点にもなり得る一つの特徴がありました。
記憶力が抜群に高く、忘れたくても忘れられない人だったのです。
伯父はフルリ家の資質である記憶力を、
不幸になることもあると諭してくれていました。

リュドに刻み込まれていくたくさんの事柄。
わたしは作品を読みながら、リュドと一緒に生きていく感覚を持ちました。
リュドの資質は著者自身を反映したものだったとしたら、
つじつまが合うように思いました。
小説の形をとって、駆け抜けていく生きざまに共鳴する感覚があるのです。

戦争。
ドイツは悪ですか。解放したイギリス・アメリカは正義ですか。
フランスは逃げ惑う腰抜けですか。

この話に出てくるエピソードは、単純化した思考を根底から揺さぶります。
人間の本質とは何かを考えさせられるのです。
人間は、時にはものすごく残酷になります。
他人の理解は、置かれた状況で180度ぐらい変わることもあります。
リュドと一緒に戦争を生き延びて、
大事なことは自分自身をしっかりと保つことなんだと学びました。

正論とは、どこかに書いてあるもの、例えば法律とか国の方針とか偉い人の言葉とか、
結局は自分の言葉に自信のない人が、
虎の威を借りて硬直的に他人を断罪することなのではないか、
そんなことを思いました。
正論を言う人間ごときに、本当はそんな権限はないというのに。

信念。それは自分が掴み取るものです。
あらゆる情報を元に、自分の中に築き上げていくものです。
他者の意見は聞かねばならないです。でも他者の言葉の受け売りではいけません。
自分で考えること。その重要さを深く学びました。

小説なのですが、それだけには留まらない深い作品です。
影響を受けている映画や小説が思い浮かびました。
日本での知名度はまだ低いですが、もっと知られていい作品です。
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たけぞう
たけぞう さん本が好き!免許皆伝(書評数:1465 件)

ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
星の数は自分のお気に入り度で、趣味や主観に基づいています。たとえ自分の趣味に合わなくても、作品の特徴を書評で分かるようにしようと務めています。星が低くても作品がつまらないという意味ではありません。

自己紹介ページの二番目のアドレスは「飲んでみた」の書評です。
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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2021-05-31 21:24

    3年後には、建国10周年記念読書会を開催する予定なので、
    たけぞうさんもぜひ、ひきつづき共和国をごひいきに♪
      >どうやら回し者のようだσ(^_^;)

    https://twitter.com/kamometuusin/status/1377805262493388803

  2. noel2021-05-31 22:20

    >正論とは、自分の言葉に自信のない人が、虎の威を借りて硬直的に他人を断罪すること

    言えてますねぇ。正論というのに限ってろくな結論はありません。当たり前すぎて、ステレオタイプで、陳腐で……。って、じゃ、てめぇはどんだけユニークなモンが書けるってんだョ。自戒を込めて自分をイジメてみましょう。

  3. たけぞう2021-06-01 18:43

    >かもめ通信さん
    ややっ、回し者ですね♪ きっと共和国さんも喜んでいますよ。ところで、本の共和国なのかな? なんだか気になります。

    >noelさん
    正論。この本を読むまでは、ここまで意識しなかったんですけど、内容で感じるものがありまして。自分ならではみたいなもの、書きたいですね、ホント。

  4. noel2021-06-01 20:45

    すでにお書きになってるじゃありませんか。今後もこの調子で頑張ってください。応援かつ期待しています。

  5. かもめ通信2021-06-01 21:07

    たけぞうさんのレビューのことを、共和国総統にお知らせしたところ、
    総統はもちろん、訳者の永田さんも大変よろこんでおられましたよ。

    https://twitter.com/Naovalis/status/1399686794883469312

  6. たけぞう2021-06-01 21:36

    >noelさん
    v(_ _)v まだまだですが、お言葉に感謝です。

    >かもめ通信さん
    見てきました。。。いつもいろいろありがとうございます。書評を翻訳者さんと編集さんに読んでもらえるなんて嬉しいですね。

  7. かもめ通信2024-04-03 05:02

    いつの間にか三年もたって、共和国も10周年!ということで、はじめましたお祝い企画。
    ぜひぜひ、ご参加下さい。

    祝! #共和国 10周年読書会

    https://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no442/index.html?latest=20

  8. たけぞう2024-04-03 12:27

    >かもめ通信さん
    お誘いありがとうございます。あとで掲示板にもスタンプがてら登録しますね。共和国の本、ちょっと探してみようかなと思いました。

  9. No Image

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