かもめ通信さん
レビュアー:
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想像の産物がなかったら、生きる価値はない。
フランス、ノルマンディー地方のクレリには、小さな凧の博物館があるという。
この町を訪れる観光客のほとんどは、どのガイドブックにも必ず載っているフランス料理の名店《クロ・ジョリ》で昼食を取った後、この博物館を訪れる。
「遠回りしてでも一見の価値あり」と評される博物館には、フランス人がくぐり抜けてきた戦争、占領、レジスタンスという、あの時代の苦しみや諦めを含めた総ての思いがこめられた凧が展示されている。
すべてアンブロワーズ・フルリの作品。
田舎の郵便配達夫だった彼は、第一次世界大戦で亡くなった兄の遺児を引き取って養育した。
その少年がリュド、この物語の語り手兼主人公だ。
学校の先生が心配するほどの優れた記憶力を持つリュドは、十歳の時、たった一度、偶然出逢った少女リラに熱烈な恋をして、四年後、再会するまで、ずっと彼女のことを想い続ける。
再会から数年間、リュドの人生には2つの季節しかなかった。
つまりポーランド貴族の令嬢リラが家族とともにやってくる夏の間の数ヶ月と、彼女がいない日々としか。
けれどもやがて台頭したヒトラーがポーランドに侵攻し、リラの消息がつかめなくなってしまう。
リラへの想いを募らせながら、レジスタンスに身を投じるリュドは、リラもまた辛い境遇に耐えながら、自分と同じように闘っているに違いないと信じ、心の中で彼女と対話を続けるのだった。
そんな彼をよく知る人々は心配していた。
たとえリラが生きていて、二人が再会できたとしても、彼女はきっとリュドが知っていた少女とはかけ離れた女性になっているに違いないと考えて。
だがしかし、何一つ忘れることのない抜群の記憶力を持った青年は、困難な状況の元で、すっかり変わってしまったかのように見える人々の素顔もまた忘れることがなかった。
戦後フランスを代表する作家ロマン・ガリが、自殺する直前の1980年に発表した最後の長篇小説。
一見すると一途な愛の物語のようにも思えるが、ストーリーの明快さにもかかわらず、戦争下で懸命に生きる人々誰もが、心の中に複雑な想いを抱いていることとともに、戦争が正義と悪という単純構造で語り得ないことをも丁寧に描いている。
吸い込まれそうなほどに真っ青な装丁にくっきり浮かぶ凧の文字。
この装丁が様々な凧の絵が描かれているよりも何倍も想像力をかき立てる。
どんな凧なんだろう。
どんな風景なんだろう。
どんな味なんだろう。
どんな人なんだろう。
どんな結末なんだろう。
読み終えたくなくて、少しずつ読んでいたのに、最終盤はページをめくる手が止められずに、とうとう読み終わってしまった。
控えめに見積もっても今年のマイベスト10入りは間違いないか。
この町を訪れる観光客のほとんどは、どのガイドブックにも必ず載っているフランス料理の名店《クロ・ジョリ》で昼食を取った後、この博物館を訪れる。
「遠回りしてでも一見の価値あり」と評される博物館には、フランス人がくぐり抜けてきた戦争、占領、レジスタンスという、あの時代の苦しみや諦めを含めた総ての思いがこめられた凧が展示されている。
すべてアンブロワーズ・フルリの作品。
田舎の郵便配達夫だった彼は、第一次世界大戦で亡くなった兄の遺児を引き取って養育した。
その少年がリュド、この物語の語り手兼主人公だ。
学校の先生が心配するほどの優れた記憶力を持つリュドは、十歳の時、たった一度、偶然出逢った少女リラに熱烈な恋をして、四年後、再会するまで、ずっと彼女のことを想い続ける。
再会から数年間、リュドの人生には2つの季節しかなかった。
つまりポーランド貴族の令嬢リラが家族とともにやってくる夏の間の数ヶ月と、彼女がいない日々としか。
けれどもやがて台頭したヒトラーがポーランドに侵攻し、リラの消息がつかめなくなってしまう。
リラへの想いを募らせながら、レジスタンスに身を投じるリュドは、リラもまた辛い境遇に耐えながら、自分と同じように闘っているに違いないと信じ、心の中で彼女と対話を続けるのだった。
そんな彼をよく知る人々は心配していた。
たとえリラが生きていて、二人が再会できたとしても、彼女はきっとリュドが知っていた少女とはかけ離れた女性になっているに違いないと考えて。
だがしかし、何一つ忘れることのない抜群の記憶力を持った青年は、困難な状況の元で、すっかり変わってしまったかのように見える人々の素顔もまた忘れることがなかった。
戦後フランスを代表する作家ロマン・ガリが、自殺する直前の1980年に発表した最後の長篇小説。
一見すると一途な愛の物語のようにも思えるが、ストーリーの明快さにもかかわらず、戦争下で懸命に生きる人々誰もが、心の中に複雑な想いを抱いていることとともに、戦争が正義と悪という単純構造で語り得ないことをも丁寧に描いている。
吸い込まれそうなほどに真っ青な装丁にくっきり浮かぶ凧の文字。
この装丁が様々な凧の絵が描かれているよりも何倍も想像力をかき立てる。
どんな凧なんだろう。
どんな風景なんだろう。
どんな味なんだろう。
どんな人なんだろう。
どんな結末なんだろう。
読み終えたくなくて、少しずつ読んでいたのに、最終盤はページをめくる手が止められずに、とうとう読み終わってしまった。
控えめに見積もっても今年のマイベスト10入りは間違いないか。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
この書評へのコメント
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- 出版社:共和国
- ページ数:313
- ISBN:9784907986612
- 発売日:2020年02月12日
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