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DBさん
DB
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図書館と上野の変遷の話
「夢見る帝国図書館」というタイトルが何とも魅力的だったので手に取ってみました。
上野公園と藝大の間くらいにある図書館が話の中心となっていて、上野や谷根千界隈の話もよく出てくる。
コロナ前は上野公園の美術館や博物館へよく行っていたので場所を思い浮かべながら読めて楽しかった。
今では国際子ども図書館となっている旧帝国図書館は、建物を見るだけで中に入ったことがなかった。
この建物が改築や増築をしながらも百年以上も図書館としてこの場所にあり続けたということがすごいなと思います。

物語はフリーライターで小説家になりたい主人公の女性の視点で語られていきます。
彼女が上野の国際子ども図書館へ取材に行って、建物の前のベンチに座っていた時に出合ったのが「喜和子さん」だった。
普段はフリーライターの肩書で自己紹介していたが、なぜか喜和子さんの前では小説家だと言ってしまう。
そこで喜和子さんに図書館を主人公にした小説を書いてほしいと頼まれます。
戦時中に生まれた喜和子さんとは親子ほどにも年が離れていたが、なぜか気が合ったのか上野に行くついでに歩いて行けるほどの距離の喜和子さんの家にも寄っていくようになる。

そこで喜和子さんと交わしたとりとめもない会話や、喜和子さんが十年ほど前に妾暮らしをしていた頃の旦那となぜか三人で飲んだりといった風景が十年近く続いていく。
この現代の話と交互に、福沢諭吉が日本にも「ビブリオテーキ」が必要だといった言葉が発端となって建てられた帝国図書館の歴史が語られていきます。
永井荷風の父や歴代の館長たちのように図書館の運営にかかわり、図書館増築や図書購入のための金がなくて苦労した人たちの話。
幸田露伴や淡島寒月、樋口一葉に森鴎外、夏目漱石、島崎藤村といった図書館通いしていた明治の文学者たち。
そして近くの上野公園で戦争の足音を聞いていた象や脱走事件を起こした黒豹の話など、百年も時代をさかのぼればいろんな人が訪れいろんな事件が起こっていた。

しばらく上野に行かないうちに喜和子さんは施設に入っており、そこで面会しているとこれまで自由で明るい女性だと思っていた喜和子さんの別の顔も見えてくるようになる。
そして帰らぬ人となった喜和子さんの過去を探すべく、喜和子さんの孫娘と共に手がかりを追っていきます。
散骨のシーンで「この世に生を受けて、その生を全うしたことを寿ぐ祝祭だよ」という台詞がなぜか胸に残った。
今度上野に行ったらこの図書館を訪れて百年の歴史を感じてみたい。
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DB
DB さん本が好き!1級(書評数:2034 件)

好きなジャンルは歴史、幻想、SF、科学です。あまり読まないのは恋愛物と流行り物。興味がないのはハウツー本と経済書。読んだ本を自分の好みというフィルターにかけて紹介していきますので、どうぞよろしくお願いします。

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