すずはら なずなさん
レビュアー:
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『「吾輩は猫である」と並び、世界中で愛されている猫文学』といううたい文句。しかも手にした本の表紙は世界のフジタ。
登録の表紙は手にした本とは違う。購入した本の表紙は藤田嗣治の猫。
同じ絵の絵葉書がうちに飾ってある。レビュー済みの「なまえのないねこ」の絵本と、理由は同じ「うちのよもぎに似てる」からだ。
2月22日猫の日の前後、ふらっと寄った小ぢんまりした本屋さんは 「フェア」というほど気合は入っていなかったのだけれど、並んだ本の中でふっと目を引いたのが この謳い文句の入った表紙。
そんなに有名な本なのだろうか。初めて見る題名なのが不思議で手に取る。
2001年単行本初版だと書いてあるから そんなに古い作品ではなさそうだ。調べると 早くにフランス語訳され、あちらで好評だったという。なるほど。
内容は 隣からの通い猫「チビ」と借家住まいの夫婦の交流を淡々と描いたもの。
出版関係の仕事をする夫婦が 立派な日本家屋の離れに家を借りて住み始めるところから始まる。
チビは隣の家で飼われ始めた猫だったが 塀を抜けて遊びに来る。こども、ペット不可、といった大家のお婆さんも、夫婦と仲良く接するし、そこまで動物嫌いというわけでもなさそうだ。母屋と「離れ」の双方の庭にやって来て勝手気ままに遊ぶ隣家の猫を追い払うということもない。
庭を丹精込めて世話していたお爺さんは身体が弱ってだんだん庭に手が回らなくなってきているようだが、季節ごとの花が咲き、風の温度を感じさせる庭の描写は 実際の庭を眺めているように楽しめる。
動物全般が好きな奥さんの「チビ」への接し方はとてもいい。
まず「抱っこ」はしない。猫の自由を尊重する。夜の訪問時、庭に出て遊びに付き合う。チビがこちらの家にやって来るのも自由だし、帰るのも自由。いちどだけ引っ掻かれての「絶交」の話も微笑ましい。
二人は「チビ」の気ままな訪問をだんだん心待ちにするようになるのだが、それはもちろん「よその猫」だという遠慮を感じながら、だ。
それでもいつでも入って来られるように チビ用の入口を開けておく。お気に入りの寝場所を用意して、そこに遠慮なく入れるようにする。ミルクとキャットフード、小鯵を焼いて待っていた。「チビ」という名以外にもシャンシャンと鈴を鳴らすから、と「シャンシャン」とも呼んだ。
猫が身近に居る人なら、そうそう、あるある、と思うような急に機敏になる動き、獲物狙う態勢や目つき、くつろぐ様子がつぶさに描かれている。この家で信頼や安心を感じているようなその態度に嬉々として、隣の飼い猫であることも ふと忘れて 自分と一番心が通っているのでは、と幸せな想像をしてしまうこともあったかもしれない。
楽しい交流は突然終わる。
「シャンシャン 来ないね」
二人は待ち、奥さんは鯵を焼き直すのだ。
それでも ぱたりと来なくなったまま。
ついに 夫は隣家に電話をしてチビの死を知ってしまうのだ。交通事故で、もう庭のお墓に入っている、と。
物語の後半はチビの居ない生活。大家のお婆さんが家を売り(もちろん貸している「離れ」も含め) 期限までの借家住まい。母屋の様子を頼まれてみつつ「自由に使っていい」と言ってくれるお婆さんもまだまだ 家と庭に愛着がある。お爺さんの病状と「老人向けマンションへの引っ越し」という現実が 結構現代の話なのだと感じさせる。
つくづく「たかが猫」の話ではない。というのはチビの死を巡っての隣家とのやりとり。
「同じ猫を愛し可愛く思っていた」ということで 相手の知らない面を教え合って飼い主と通い先の者が仲良く 懐かしがることができると思っていた主人公。その考えが違っていたことに気づくのだ。
せめてお墓参りに、せめてお花でも、という申し出に、今はちょっと……、といいながら隣家の奥さんは連絡をしてくれない。
やっと思い至ったのは 飼い主にとってよそで可愛がられて、一緒に夜の時間を過ごしたり 知らないところでおやつの焼き魚をもらったりしていたなんていうのは 喜ばしいことではなかったのかもしれないということ。
まるで 隣家の飼い主の態度への理解の様子が、夫の死後 無粋な愛人が現れて一緒に思い出を語らったら楽しいと思っている、家族が悲しみに沈む中で傷つけられる、なんて話と同じような状況なのだ。
よその家の飼い猫との交流ならではの物語なのだな、と思うのだ。
引っ越し先の話は後日譚という感じで続くのだが、奥さんがペット不可の団地でのらの子を おもちゃで家まで引き入れてまで「うちの子」にしてしまう。転居先を探していた時は「チビの訪ねて来られるところ」を条件に考えていたこともあり、だんだん「自分の猫」が欲しい気持ちが抑えられなくなってきたのだろう。
本当にヒトにとって愛する猫は「たかが猫」なんかではないのだ、と思う。
同じ絵の絵葉書がうちに飾ってある。レビュー済みの「なまえのないねこ」の絵本と、理由は同じ「うちのよもぎに似てる」からだ。
2月22日猫の日の前後、ふらっと寄った小ぢんまりした本屋さんは 「フェア」というほど気合は入っていなかったのだけれど、並んだ本の中でふっと目を引いたのが この謳い文句の入った表紙。
そんなに有名な本なのだろうか。初めて見る題名なのが不思議で手に取る。
2001年単行本初版だと書いてあるから そんなに古い作品ではなさそうだ。調べると 早くにフランス語訳され、あちらで好評だったという。なるほど。
内容は 隣からの通い猫「チビ」と借家住まいの夫婦の交流を淡々と描いたもの。
出版関係の仕事をする夫婦が 立派な日本家屋の離れに家を借りて住み始めるところから始まる。
チビは隣の家で飼われ始めた猫だったが 塀を抜けて遊びに来る。こども、ペット不可、といった大家のお婆さんも、夫婦と仲良く接するし、そこまで動物嫌いというわけでもなさそうだ。母屋と「離れ」の双方の庭にやって来て勝手気ままに遊ぶ隣家の猫を追い払うということもない。
庭を丹精込めて世話していたお爺さんは身体が弱ってだんだん庭に手が回らなくなってきているようだが、季節ごとの花が咲き、風の温度を感じさせる庭の描写は 実際の庭を眺めているように楽しめる。
動物全般が好きな奥さんの「チビ」への接し方はとてもいい。
まず「抱っこ」はしない。猫の自由を尊重する。夜の訪問時、庭に出て遊びに付き合う。チビがこちらの家にやって来るのも自由だし、帰るのも自由。いちどだけ引っ掻かれての「絶交」の話も微笑ましい。
二人は「チビ」の気ままな訪問をだんだん心待ちにするようになるのだが、それはもちろん「よその猫」だという遠慮を感じながら、だ。
それでもいつでも入って来られるように チビ用の入口を開けておく。お気に入りの寝場所を用意して、そこに遠慮なく入れるようにする。ミルクとキャットフード、小鯵を焼いて待っていた。「チビ」という名以外にもシャンシャンと鈴を鳴らすから、と「シャンシャン」とも呼んだ。
猫が身近に居る人なら、そうそう、あるある、と思うような急に機敏になる動き、獲物狙う態勢や目つき、くつろぐ様子がつぶさに描かれている。この家で信頼や安心を感じているようなその態度に嬉々として、隣の飼い猫であることも ふと忘れて 自分と一番心が通っているのでは、と幸せな想像をしてしまうこともあったかもしれない。
楽しい交流は突然終わる。
「シャンシャン 来ないね」
二人は待ち、奥さんは鯵を焼き直すのだ。
それでも ぱたりと来なくなったまま。
ついに 夫は隣家に電話をしてチビの死を知ってしまうのだ。交通事故で、もう庭のお墓に入っている、と。
物語の後半はチビの居ない生活。大家のお婆さんが家を売り(もちろん貸している「離れ」も含め) 期限までの借家住まい。母屋の様子を頼まれてみつつ「自由に使っていい」と言ってくれるお婆さんもまだまだ 家と庭に愛着がある。お爺さんの病状と「老人向けマンションへの引っ越し」という現実が 結構現代の話なのだと感じさせる。
つくづく「たかが猫」の話ではない。というのはチビの死を巡っての隣家とのやりとり。
「同じ猫を愛し可愛く思っていた」ということで 相手の知らない面を教え合って飼い主と通い先の者が仲良く 懐かしがることができると思っていた主人公。その考えが違っていたことに気づくのだ。
せめてお墓参りに、せめてお花でも、という申し出に、今はちょっと……、といいながら隣家の奥さんは連絡をしてくれない。
やっと思い至ったのは 飼い主にとってよそで可愛がられて、一緒に夜の時間を過ごしたり 知らないところでおやつの焼き魚をもらったりしていたなんていうのは 喜ばしいことではなかったのかもしれないということ。
まるで 隣家の飼い主の態度への理解の様子が、夫の死後 無粋な愛人が現れて一緒に思い出を語らったら楽しいと思っている、家族が悲しみに沈む中で傷つけられる、なんて話と同じような状況なのだ。
よその家の飼い猫との交流ならではの物語なのだな、と思うのだ。
引っ越し先の話は後日譚という感じで続くのだが、奥さんがペット不可の団地でのらの子を おもちゃで家まで引き入れてまで「うちの子」にしてしまう。転居先を探していた時は「チビの訪ねて来られるところ」を条件に考えていたこともあり、だんだん「自分の猫」が欲しい気持ちが抑えられなくなってきたのだろう。
本当にヒトにとって愛する猫は「たかが猫」なんかではないのだ、と思う。
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電車通勤になって 少しずつでも一日のうちに本を読む時間ができました。これからも マイペースで感想を書いていこうと思います。
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- 出版社:河出書房新社
- ページ数:173
- ISBN:9784309409641
- 発売日:2009年05月30日
- 価格:599円
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