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紅い芥子粒
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ステイシーは、マサチューセッツ工科大学で生物学を学びながら、助手として働いていた。ある生物学の教授から、生後四日のメンフクロウのひなをもらい受けたのは、1985年の聖バレンタインデーの朝だった。
メンフクロウのひなは、片翼の神経をやられていた。
大きくなっても、野生では生きられない。
「手元に置いて、一生、世話してやるしかないんだ」と、教授は、いった。
首も立たず、目も開いていなかった。頭部に白い羽毛がひとふさ、背中には綿毛が三筋、あとはピンクの肌がむき出し。
ステイシーは、ひと目でそのいたいけな生き物に恋に落ちた。
メンフクロウのひなを自宅に連れ帰り、ウェズリーと名付けた。

この本は、ステイシーとウェズリーが共に暮らした、19年の思い出の記である。
生物学の研究者による、メンフクロウの観察記録でもある。

フクロウは、ネズミしか食べないという。
ステイシーは、ウェズリーのために、生きたネズミを手に入れ、殺して食べさせる。
腕に止まらせ、鉤爪が肌に食い込んでも、痛みをこらえて、母が子にするようにやさしく語りかける。
ベッドにウェズリーの枕を用意し、夜はいっしょに床に就く。

三年経ち、成鳥になると、ウェズリーは求愛の歌を歌うようになった。
耳をつんざくような異様な声。
フクロウは、ひとたび連れ添った相手と、生涯添い遂げるという。
相手に先立たれると、食欲をなくし、うなだれて死んでいくという。
ステイシーは、ウェズリーに生涯の伴侶に選ばれたのだった。
くちばしで雑誌を引き裂いて、紙屑で巣を作り、妻を巣に誘おうとした。
ステイシーに危険が迫ると、守ろうとした。

ステイシーは、まだ20代の女性。
人間のボーイフレンドだってできる。
しかし、ウェズリーの鋭い鉤爪や、耳をつんざく鳴き声や、ネズミのえさを受け入れられる男は、いなっかた。
ステイシーは、いつだって、人間のボーイフレンドよりフクロウの恋人を選んだ。

ステイシーの言葉を理解するようになったウェズリー。
さえずりや鳴き声で、ウェズリーの感情や欲求を聞き分けるステイシー。
ステイシーと「会話」するウェズリーの鳴き声の録音記録は、未知の部分が多いメンフクロウの貴重な研究資料にもなった。

出会い、ともに暮らすようになって19年。
ウェズリーは、ステイシーに看取られて、静かに旅立って行った。
人間にすれば百歳を超える長寿をまっとうできたのだった。

19年の間に、ステイシーは、不治の難病に罹った。
病気を背負いながらも、ウェズリーと添い遂げることができたのは、多くの人との友情に恵まれたからだった。

この書は、人と人、人と動物との、愛と友情の記録でもある。
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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:561 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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