DBさん
レビュアー:
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疫病で封鎖された町の話
本作を初めて読んだのは学生時代の仏文のレポート課題だった時のこと。
疫病の流行で封鎖された都市でそれぞれに生きていく人々を描いている。
あまりにもリアルな心理描写が印象に残っています。
コロナ禍関連のニュースで本作が紹介されていたので再読しました。
物語の舞台となるのは、アルジェリアのオランという二十万の人が住む市だ。
町で鼠の死体を頻繁に見かけるようになるのが事件の予兆となる。
ネズミの大量死の後に襲ってきたのは人間が次々に死んでいく疫病だった。
ペストの蔓延が確定的となるやオランは封鎖される。
封鎖されてオランの中で起こる出来事や人々の様子について、医者として最前線で戦うリウーを主人公に描いています。
最初の数人の死者をみて、それが疫病だと感じたリウーは医者仲間と連絡を取り合います。
自分と同じ危惧と確信を仲間も持っていることを知り役所へ対策をとるように掛け合うものの。
それが本当にペストなのか確証がないと動けないという知事を前に、ペストだろうがそうじゃなかろうが伝染性の病気で人がどんどん死んでいくのは間違いないと押し切る医者連合。
急激に増えた死者を前に驚いてオランを封鎖することにした政府。
町に閉じ込められ仕事もできず、まるで祭りの日のようにカフェや映画館へ繰り出す人々。
そしてペストにかかったからと道に飛び出してそこにいた女性に「ペストにかかっちゃった」と抱きつく男に、自分は特別だからオランから出ていくべきだという理論のもとに医者の仕事を邪魔するジャーナリスト。
ペストを神の裁きだと説く神父に、無気力に置かされて何もせずにただ毎日を過ごすだけの人々。
疫病を前にした集団の愚かさを見事にカミュが描き出している。
まったく同じ光景が日本でも繰り広げられているのには失笑するしかない。
だが懸命に働くリウーや、ボランティアとして彼を助ける多くの人も現れてきます。
愚かな集団から比べればほんの一握りの人たちではあったが。
それらの人の中をペストは無差別に襲い犠牲者を出していった。
伝染病で封鎖されたときの集団心理を見事に描き出しているが、戦争とからめてペストを解釈するのが一般的だろう。
ナチスだという解釈もあるが、これはもっと大きな悪そのものである。
第一次世界大戦で父を亡くし、第二次世界大戦のナチスの弾圧を見つめていたカミュにとって、ペストは戦争を引き起こすことや、それに対抗することでやはり人を死に追いやることを現していたのかもしれない。
戦争を引き起こした人間を裁くこともまた、人に死を与えることを正当化するペストである。
そしてそれは誰の心の中にもある。
だからこそそれを認識し、表に出ないようにしなければならないとリウーは語る。
ペストは沈静化しただけで根絶したのではないからだ。
疫病の流行で封鎖された都市でそれぞれに生きていく人々を描いている。
あまりにもリアルな心理描写が印象に残っています。
コロナ禍関連のニュースで本作が紹介されていたので再読しました。
物語の舞台となるのは、アルジェリアのオランという二十万の人が住む市だ。
町で鼠の死体を頻繁に見かけるようになるのが事件の予兆となる。
ネズミの大量死の後に襲ってきたのは人間が次々に死んでいく疫病だった。
ペストの蔓延が確定的となるやオランは封鎖される。
封鎖されてオランの中で起こる出来事や人々の様子について、医者として最前線で戦うリウーを主人公に描いています。
最初の数人の死者をみて、それが疫病だと感じたリウーは医者仲間と連絡を取り合います。
自分と同じ危惧と確信を仲間も持っていることを知り役所へ対策をとるように掛け合うものの。
それが本当にペストなのか確証がないと動けないという知事を前に、ペストだろうがそうじゃなかろうが伝染性の病気で人がどんどん死んでいくのは間違いないと押し切る医者連合。
急激に増えた死者を前に驚いてオランを封鎖することにした政府。
町に閉じ込められ仕事もできず、まるで祭りの日のようにカフェや映画館へ繰り出す人々。
そしてペストにかかったからと道に飛び出してそこにいた女性に「ペストにかかっちゃった」と抱きつく男に、自分は特別だからオランから出ていくべきだという理論のもとに医者の仕事を邪魔するジャーナリスト。
ペストを神の裁きだと説く神父に、無気力に置かされて何もせずにただ毎日を過ごすだけの人々。
疫病を前にした集団の愚かさを見事にカミュが描き出している。
まったく同じ光景が日本でも繰り広げられているのには失笑するしかない。
だが懸命に働くリウーや、ボランティアとして彼を助ける多くの人も現れてきます。
愚かな集団から比べればほんの一握りの人たちではあったが。
それらの人の中をペストは無差別に襲い犠牲者を出していった。
伝染病で封鎖されたときの集団心理を見事に描き出しているが、戦争とからめてペストを解釈するのが一般的だろう。
ナチスだという解釈もあるが、これはもっと大きな悪そのものである。
第一次世界大戦で父を亡くし、第二次世界大戦のナチスの弾圧を見つめていたカミュにとって、ペストは戦争を引き起こすことや、それに対抗することでやはり人を死に追いやることを現していたのかもしれない。
戦争を引き起こした人間を裁くこともまた、人に死を与えることを正当化するペストである。
そしてそれは誰の心の中にもある。
だからこそそれを認識し、表に出ないようにしなければならないとリウーは語る。
ペストは沈静化しただけで根絶したのではないからだ。
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好きなジャンルは歴史、幻想、SF、科学です。あまり読まないのは恋愛物と流行り物。興味がないのはハウツー本と経済書。読んだ本を自分の好みというフィルターにかけて紹介していきますので、どうぞよろしくお願いします。
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- ページ数:476
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- 発売日:1970年04月03日
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