三太郎さん
レビュアー:
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書かれてから30年経っても古びない名著!
この本のテーマは「動物(人間も)にとって時間とは何か」という、とても深い問いかけだと僕は受け取りました。「時間」など存在しない・・・などと主張する学者がいたりしますが、そんなことは到底信じられません(キッパリ!)。
でも、人間にとっての時間とネズミにとっての時間は同じ速さで流れるのだろうか?と考え出すと・・・途端に自信がなくなります。物理学の時間はきちんと定義されており、いつでも計測できるはずですが、ネズミと人間とでは時間の重みが違うのかもしれない・・・
動物は、哺乳類に限っても、様々な形状や大きさをしており、脳が大きかったり、足が速かったり、体重が何トンもあったり、逆に数gしかなかったり、実にバラエティーに富んでいます。にもかかわらず、どんな動物でも一生の間に心臓が脈打つ回数は20億回と決まっているとは驚き以外の何物でもありません。(人間で計算すると寿命はおよそ70年ですね。)
寿命の長い動物(例えばゾウ)の心臓はゆっくり動き、寿命の短い動物(例えばネズミ)の心臓は早く脈打つということから考えると、ネズミにとっては時間の流れは僕らよりずっと早いのかもしれませんね。
実は体重が重いほど心臓の動きがゆっくりになる、正確には心臓が一回脈打つ時間(T)はその動物の体重(W)の0.25乗に比例するという経験則があるそうです。
T=C1×W^0.25 ・・・(式1) [ただしC1は実験で求められる定数]
この式から、体重が2倍になると時間Tは1.2倍になることが分かります。また、式1のTの値を20億倍すると体重がWの動物の寿命になります。体が大きい動物ほど長生きです。例えば体重が100万倍違うと(例えば10トンと10g)、寿命は32倍違うことになります。
この本は様々な動物に共通する、体の大きさと時間や速度の関係をひも解くという試みです。
体重とエネルギー代謝量
動物の安静時の標準代謝量Esは体重Wの0.75乗に比例することが知られています。
Es=C2×W^0.75 ・・・(式2) [ただしC2は実験で求められる定数]
体重が2倍になっても標準代謝量は2倍までは増えない(正確には1.68倍)ということですね。
体重と食事の量
体重が重い動物ほど沢山餌を食べるのは当然ですが、肉食獣の場合は食事の量は体重の0.75乗に比例します。体重が2倍の動物の食事の量は2倍より少ないのですね。体重の重い動物ほど体重当たりの食べる量が少なく余裕のある生活ができそうです。
成長効率
食べた食料の内、何%が肉になるかを調べると、恒温動物では食べ物の2%しか成長には使われないことが分かります。変温動物だと21%が成長に使われます。牛の肉はぜいたく品ですね。これからはカエルやヘビの肉を食べるのが効率的なのかも。昆虫もよさそうです。
歩く速さ
動物がゆっくり(走らずに)歩く速さは体重が重い動物ほど早い。歩幅が大きくなるからでしょう。意外にも、体重と歩く速さの関係式は、哺乳類と昆虫とで同じになります。
走るコスト、飛ぶコスト、泳ぐコスト
同じ距離を移動するに必要な体重当たりのエネルギーは、体重が重いほど低く、同じ体重なら、
走る > 飛ぶ > 泳ぐ
の順にエネルギーがかかる。意外にも鳥が飛ぶのは動物が走るのより効率がよい。泳ぐ魚は最も効率が高い。ちなみにジェット機は鳥より効率が低い。
泳ぐことの効率の高さは魚だけでなく、哺乳類、例えばイルカでもいえます。だからイルカは水槽の中でくるくると泳ぎ回っていても、実はエネルギーをあまり余分には使っていません。陸上の哺乳類が動物園の檻の中で走ったりしないのは、エネルギーを無駄使いしないためでしょう。
呼吸・循環器系
動物をトレッドミル上で走らせて、最大の酸素消費量を求めると、やはり体重Wの0.75乗に比例します。この最大酸素消費量を体重Wで割ると、単位体重当たりの最大酸素消費量が求められますが、これは体重Wの-0.25乗に比例することになります。「体重Wの-0.25乗に比例する」ということは体重が軽いほど体重当たりの酸素消費量が多いということです。例えば、体重が300kgのウシより体重が30gのネズミの方が10倍も単位重量当たりの酸素消費量が多いのです。
酸素は細胞内のミトコンドリアでATP(アデノシン3リン酸)の合成に使われますが、このATPが筋肉のアクチン-ミオシン系に作用して筋肉を縮めます。
実は動物の筋肉が縮まる速さを調べると、筋肉の収縮速度は体重Wの-0.25乗に比例します。体が小さい動物ほど筋肉の収縮が早いのです。それで単位体重当たりの最大酸素消費量が体重Wの-0.25乗に比例することになる訳です。
つまり体重が軽い動物の細胞ほど沢山の酸素を消費してATPを合成するわけですが、実際にネズミの細胞内のミトコンドリアの数は牛の細胞内のそれの数より多いそうです。
ここまで読んできて分かるのは、体重の軽いネズミは体の大きいゾウよりも細胞内でATPを沢山合成しなければならず、そのためには血液の循環も早くなければならず、心臓の鼓動が早くなって、その結果として寿命が短いのかもしれないということです。
ここまで、体重Wの0.75乗とか、体重Wの0.25乗とか書いてきましたが、これは各々、体重の3/4乗、体重の1/4乗と同じ意味でした。この3/4とか1/4とかいう分数がなぜ現われるのかは本の後半部分で議論されています。
でもこのレビューも大分長くなったので、詳しく知りたい方はこの本を読んでみてくださいね。
でも、人間にとっての時間とネズミにとっての時間は同じ速さで流れるのだろうか?と考え出すと・・・途端に自信がなくなります。物理学の時間はきちんと定義されており、いつでも計測できるはずですが、ネズミと人間とでは時間の重みが違うのかもしれない・・・
動物は、哺乳類に限っても、様々な形状や大きさをしており、脳が大きかったり、足が速かったり、体重が何トンもあったり、逆に数gしかなかったり、実にバラエティーに富んでいます。にもかかわらず、どんな動物でも一生の間に心臓が脈打つ回数は20億回と決まっているとは驚き以外の何物でもありません。(人間で計算すると寿命はおよそ70年ですね。)
寿命の長い動物(例えばゾウ)の心臓はゆっくり動き、寿命の短い動物(例えばネズミ)の心臓は早く脈打つということから考えると、ネズミにとっては時間の流れは僕らよりずっと早いのかもしれませんね。
実は体重が重いほど心臓の動きがゆっくりになる、正確には心臓が一回脈打つ時間(T)はその動物の体重(W)の0.25乗に比例するという経験則があるそうです。
T=C1×W^0.25 ・・・(式1) [ただしC1は実験で求められる定数]
この式から、体重が2倍になると時間Tは1.2倍になることが分かります。また、式1のTの値を20億倍すると体重がWの動物の寿命になります。体が大きい動物ほど長生きです。例えば体重が100万倍違うと(例えば10トンと10g)、寿命は32倍違うことになります。
この本は様々な動物に共通する、体の大きさと時間や速度の関係をひも解くという試みです。
体重とエネルギー代謝量
動物の安静時の標準代謝量Esは体重Wの0.75乗に比例することが知られています。
Es=C2×W^0.75 ・・・(式2) [ただしC2は実験で求められる定数]
体重が2倍になっても標準代謝量は2倍までは増えない(正確には1.68倍)ということですね。
体重と食事の量
体重が重い動物ほど沢山餌を食べるのは当然ですが、肉食獣の場合は食事の量は体重の0.75乗に比例します。体重が2倍の動物の食事の量は2倍より少ないのですね。体重の重い動物ほど体重当たりの食べる量が少なく余裕のある生活ができそうです。
成長効率
食べた食料の内、何%が肉になるかを調べると、恒温動物では食べ物の2%しか成長には使われないことが分かります。変温動物だと21%が成長に使われます。牛の肉はぜいたく品ですね。これからはカエルやヘビの肉を食べるのが効率的なのかも。昆虫もよさそうです。
歩く速さ
動物がゆっくり(走らずに)歩く速さは体重が重い動物ほど早い。歩幅が大きくなるからでしょう。意外にも、体重と歩く速さの関係式は、哺乳類と昆虫とで同じになります。
走るコスト、飛ぶコスト、泳ぐコスト
同じ距離を移動するに必要な体重当たりのエネルギーは、体重が重いほど低く、同じ体重なら、
走る > 飛ぶ > 泳ぐ
の順にエネルギーがかかる。意外にも鳥が飛ぶのは動物が走るのより効率がよい。泳ぐ魚は最も効率が高い。ちなみにジェット機は鳥より効率が低い。
泳ぐことの効率の高さは魚だけでなく、哺乳類、例えばイルカでもいえます。だからイルカは水槽の中でくるくると泳ぎ回っていても、実はエネルギーをあまり余分には使っていません。陸上の哺乳類が動物園の檻の中で走ったりしないのは、エネルギーを無駄使いしないためでしょう。
呼吸・循環器系
動物をトレッドミル上で走らせて、最大の酸素消費量を求めると、やはり体重Wの0.75乗に比例します。この最大酸素消費量を体重Wで割ると、単位体重当たりの最大酸素消費量が求められますが、これは体重Wの-0.25乗に比例することになります。「体重Wの-0.25乗に比例する」ということは体重が軽いほど体重当たりの酸素消費量が多いということです。例えば、体重が300kgのウシより体重が30gのネズミの方が10倍も単位重量当たりの酸素消費量が多いのです。
酸素は細胞内のミトコンドリアでATP(アデノシン3リン酸)の合成に使われますが、このATPが筋肉のアクチン-ミオシン系に作用して筋肉を縮めます。
実は動物の筋肉が縮まる速さを調べると、筋肉の収縮速度は体重Wの-0.25乗に比例します。体が小さい動物ほど筋肉の収縮が早いのです。それで単位体重当たりの最大酸素消費量が体重Wの-0.25乗に比例することになる訳です。
つまり体重が軽い動物の細胞ほど沢山の酸素を消費してATPを合成するわけですが、実際にネズミの細胞内のミトコンドリアの数は牛の細胞内のそれの数より多いそうです。
ここまで読んできて分かるのは、体重の軽いネズミは体の大きいゾウよりも細胞内でATPを沢山合成しなければならず、そのためには血液の循環も早くなければならず、心臓の鼓動が早くなって、その結果として寿命が短いのかもしれないということです。
ここまで、体重Wの0.75乗とか、体重Wの0.25乗とか書いてきましたが、これは各々、体重の3/4乗、体重の1/4乗と同じ意味でした。この3/4とか1/4とかいう分数がなぜ現われるのかは本の後半部分で議論されています。
でもこのレビューも大分長くなったので、詳しく知りたい方はこの本を読んでみてくださいね。
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1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。
長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。
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- 出版社:中央公論社
- ページ数:230
- ISBN:9784121010872
- 発売日:1992年08月01日
- 価格:714円
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