書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

星落秋風五丈原
レビュアー:
ロシアに(×より)愛をこめて
 宮城谷昌光氏「孟夏の太陽」に収録された「隼の城」に、こんな場面がある。

趙家の総帥趙鞅(ちょうおう)が、子供達を山に連れて行き、「隠してある宝の符を探せ」と言う。実はこれは後継者選びを兼ねていた。夕方になり、憔悴して戻ってきた子供達のうちで、ただ一人、
「符を見つけました。」
と言ったのが、妾腹の無恤(ぶじゅつ)だった。彼は、次々に項垂れる子供達の顔を見ている父を眺めて、
「そろいもそろって、あなたの子はたわけではありません。」
と言おうとし、前述の言葉となった。
「うちの息子達はみんな駄目だ。」と気落ちする父を励ましたかったのだ。
その時、無恤はどんな顔をしていたか。きっと、ぶるぶると拳を震わせていただろう。

 本書を読んでいると、なぜかあの場面の無恤の表情が浮かんできた。
崩壊後、元気のない旧ソ連の人々の先頭に立った米原氏が、ぶるぶると拳を震わせ、こう言っているように感じた。
「そろいもそろって、ロシア人は飲ん兵衛ばかりではありません。」

 とはいえ、次から次へと出てくる酒絡みの小噺の多さから察するに、事実彼等は、酒をたくさん飲むのだろう。日本人の感覚からすれば、うわばみと言われる位に。だが、一度でも冬の大陸を渡った者ならわかる。地面についている靴を伝って、這い昇ってきた寒さが、遂に頭の
てっぺんに達した時の「ひゃあ! 寒い!」という感覚。半端ではない。
あれだけの寒さに対抗するのには、体の中でぼうぼう火を燃やすしかないのだ。そう、酒には寒さ対策という、立派な健康上の理由もあるのだ!ほら、そう考えると、むげに「ロシア人って飲ん兵衛ばっか!」と言い捨てられないのでは?…と、言ってるそばから管を巻く某政府要人が登場!あーらら、せっかくフォローしたのに。

 と、まあこんな酒絡みのエピソード以外にも、驚きのトイレ体験や、音楽家が日本で気に入ってしまった意外なもの、要人達の素顔などが収録されていて、くすくす笑ったり、呆れたり、読む側は百面相に忙しい。そしてこの中には、後の著書「真夜中の太陽」に育ってゆく、日本への批判の目(芽)、「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」に育ってゆく、国家の影響を受けたごく普通の人々へ向けられた目(芽)等、後に花開き、実を結ぶ双葉が
そこかしこに見受けられた。
「栴檀(せんだん)は双葉より芳(かんば)し」といいますが、この双葉、ちょっとウォッカ臭い。でも、ロシアへの愛に溢れてるから、悪酔いはしないだろう、多分。
我と思わん酒飲みの貴方、どうです? 試してみませんか?

米原万里著書
真昼の星空
旅行者の朝食
オリガ・モリソヴナの反語法
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2326 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

読んで楽しい:15票
参考になる:16票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. かもめ通信2020-06-24 17:10

    これ懐かしい!に1票。

  2. 脳裏雪2020-07-03 15:15

    アハハ、いいね、
    そろいも揃って~ばかりではありません、
    っつながり、、そういうのって よくあります、
    すぐ忘れるのですが、、
    万里姫によって、ロシアのおとこは呑んベェばかり、っと教えられた気がします、

  3. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『ロシアは今日も荒れ模様』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ