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ぷるーと
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突然、自分の顔が変わってしまったら・・・。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

科学者である主人公は、実験中に液体空気が爆発するという事故で、顔にやけどを負い、顔一面が蛭のようなケロイド瘢痕となってしまった。

包帯を巻き付けた顔。それを見るだけで、人々は怯み、主人公を避けようとする。
顔がなくなったというだけで、疎まれる存在になってしまったことに困惑し、怒り、主人公は雑誌で見た人工皮膚を考案した科学者のもとを訪ね、彼が作った指の皮膚を貰い受けて、自ら新しい顔ね仮面を作り上げる。

というとSFのようだが、安部公房が描くのは、顔がなくなることで存在を全否定されてしまった男の苦悩であり、顔が変わっただけで、他の人と違う顔をしているだけでいわれのない差別を受けなくてはいけないことに対する疑問である。

訪問した科学者や飲みに行こうと約束していた旧友が、主人公の包帯を巻き付けた顔を見るなり態度を急変させるのは、差別する側を誇張して描いたものだが、多かれ少なかれ態度が変わってしまう者は多いのではないだろうか。

顔をなくした主人公は、いわれのない差別を受けることになり、人種差別、民族差別へと思いを馳せる。日本の小説の中で朝鮮人の差別について言及したのは、この作品が初めてだという。

顔が変わったといって差別する者は、主人公の仮面にころりとだまされる。実は、主人公自身がそうで、仮面をつけた主人公が別人のような考え方をするようになるのは、その表れだろう。

一方、仮面に惑わされず本質を見抜く者もいる。一人は主人公が借りているアパートの管理人の娘で、彼女は、包帯の男と仮面の男が同一人物であることを瞬時に見抜く。
そして、もう一人は、なんと主人公の妻だ。彼女がそういう人物だということを知っていたなら、主人公は悩まずに済んだということになるのだが、主人公自身に差別意識があったために気付くことができなかった、後悔先にたたず、ということになるのだろうか。
とはいえ、妻の告白の手紙が本当に妻が書いたものか、それも主人公の創作なのか判然としないので、なんとも言えない。
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ぷるーと
ぷるーと さん本が好き!1級(書評数:2922 件)

 ホラー以外は、何でも読みます。みなさんの書評を読むのも楽しみです。
 よろしくお願いします。
 

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