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千世さん
千世
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孤独な青年は、恋した少女の幸せのためにひたすら奔走した。愚かなまでにやさしく、内気な性格の彼は、後の『虐げられた人々』や『白痴』の主人公を思わせます。ドストエフスキー初期の、悲しくも美しい作品です。
 ドストエフスキーの若き日の短編『白夜』です。ドストエフスキーと言えば、もっとも有名なのは『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』などの長編小説ですが、本作はそれらとはかなり趣の異なる作品です。

 しかし『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』をより深く理解するためには、この『白夜』や『貧しき人々』など初期の作品を読んでおくことも重要だと私は思っています。どちらも素晴らしい作品です。

 ペテルブルクで孤独に生きる青年の「私」。彼はきっと作者の分身なのでしょう。内気で、人に話しかけるのが苦手で、毎日の生活でただすれ違うだけの、名前も知らない人以外知り合いもない人。その人たちがペテルブルクを離れて別荘へと行ってしまっただけで、さびしさを感じてしまう青年。ひたすら空想の世界に生き、しかしその世界での彼は、歓喜や冒険に溢れているのです。

 そんな彼が、運河のらんかんにもたれて泣く少女ナースチェンカに声をかけることができたのは、恋以外の何物でもなかったでしょう。

 自分の思いに蓋をして、恋する少女の幸福のために奔走する姿は、まさに『虐げられた人々』の「私」を思い起こさせました。なぜこうも人のために尽くせるのか。なぜこうも愚かなのか。そう思うからこそ、読者は彼の幸福を願わざるを得ません。

 ドストエフスキーは後にこういうばかなタイプの青年を、『白痴』において主人公とし、2人の美女に熱烈に愛される男として描きました。愚かなまでにやさしすぎる青年を。空想の世界ではない現実として。

 残酷で悲しく、やさしくて美しい、貧しき人々。ドストエフスキーの魅力の一面が凝縮された作品です。
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千世
千世 さん本が好き!1級(書評数:404 件)

国文科出身の介護支援専門員です。
文学を離れて働く今も、読書はライフワークです。

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この書評へのコメント

  1. noel2021-07-04 15:27

    >自分の思いに蓋をして、恋する少女の幸福のために奔走する姿は、まさに『虐げられた人々』の「私」を思い起こさせました。なぜこうも人のために尽くせるのか。なぜこうも愚かなのか。

    この言葉を読んで、自分の書いた書評を思い出しました。男とはなぜかくも愚かなのでしょう。もしよかったら、読んでやってください。
    https://www.honzuki.jp/book/259103/review/263605/

  2. 千世2021-07-05 20:30

    noel様、こんばんは。

    書評、興味深く読ませて頂きました。
    ドストエフスキーの描くこの手の男は、本当に無私なんです。そして女もそのことに心から感謝しています。でも、女が愛しているのは別の男なんです。
    結局どちらも幸せになれない、というパターンが多いのですが、それが切なくて。

  3. No Image

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