登場人物は雑多な市井の人たちや、ロボット、スパイ、窃盗団、女優、宇宙人、悪 魔・・・・そして御馴染のエヌ氏。その幅の広さにも驚嘆します。
ただし、3-5ページのショートショート50編を集めたこの本で、40年を経て、覚えていたのはたったの1編だけです。49編は初めて読むのと全く同じ新鮮さで楽しめたのですが、それだけ印象に残らないということがショートショートの宿命ということでしょうか。ちょっとかわいそう。
その唯一記憶に残っていた作品は「「おーいででこい」です。これは本当によくできている話で、現代においても全く古さを感じさせないどころか、その重みを増すばかりです。
ある村で地面に穴が見つかります。とても深くて、底が伺えません。
「狐の穴かな」「おーいででこい」
反応はありません。
学者が調べますが、深さは伺い知れません。利権屋がこの穴を買い取り、産業廃棄物を投棄し始めました。国家機密も投棄しました。伝染病の実験動物を投棄しました。穴は何でも引き受けて、世界がきれいになってきました。ところがある日・・・・この後6行でF難度の見事な着地(オチ)を見せてくれます。
このほかとくに好きな作品だけいくつか紹介します(ネタバレ全開ですが許してね)。
○愛用の時計
5年前に初めてのボーナスで購入した腕時計をK氏は大切にし、大げさな言い方をすれば愛していさえした。定期的に検査に出し、そのおかげでいつもぴったりの時刻を知らせてくれていましたが、ある時、狂ってバスに乗り遅れてしまいました。「なんてことをしてくれたんだ、これだけ大切に扱ってやってるのに」。早速時計店に修理に出かけるとラジオから「S山に行くバスが谷へ転落して・・・・」それはK氏が乗るはずのバスでした。
○おみやげ
地球にまだ人類が出現する以前にフロル星人は地球に到達し、来るべき知的生物のために「宇宙ロケット設計図、万病に効く薬の製法、平和に暮らすための仕組みを書いた書物」を金属カプセルに入れ、砂漠の中に残してくれていた。長い年月の末文明をはぐくんだ人類は、この砂漠で原爆実験を行い、カプセルごとお土産を焼きつくしてしまいました。
○殺し屋ですのよ
社長のエヌ氏のもとに美貌の女殺し屋が登場。ライバル会社のG産業の社長を疑われることなく呪い殺すという話をもちかけます。報酬は成功後の後払いでいい という約束で契約しますが、4ヶ月後問題の社長は病死。警察は不審を抱かず葬儀も無事終了。女殺し屋の手腕に恐れをなしたエヌ氏は約束通り報酬を支払います。・・・この後9行でオチ。彼女の正体とは。
筒井康隆大先生が文庫の解説を書いてらっしゃるのですが、これがびっくりするぐらい駄文で、全筒井の出版物でこれほどつまらないものがあろうかという、 ある意味「レアもの」です。まあ、これだけ雑多な小説集の解説も難しいだろうし、先輩星新一の解説ともなると、舌鋒も丸くならざるを得ないのは解りますが、それにしても、何が言いたいのかわからないむちゃくちゃな解説です。これ一読の価値ありますよ。笑っちゃいます。(マイナス1点)
昭和46年に発行の古い新潮文庫を読みました。活字が小さくてよくこんな本読んでたなあと、老眼になった自分を悲しく思いましたが、御馴染の真鍋博さんの精緻でユーモラスな挿絵と相まって名著といえるでしょう。もう何冊か星ショートショート集を読み返したくなりました。日本文学の宝だと思います。教科書に載せろ!!!!
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