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ぱせりさん
ぱせり
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その「死体」に導かれて……。
時は2020年代後半。
月面には、国連宇宙軍(UNSA)による研究施設もできているし、地球との間に宇宙船が行き来して、探査や研究がどんどん進んでいる。そういう時代になっている。
この作品が発表されたのが1977年なので、約50年後の未来ということになる。


月面で、真紅の宇宙服に包まれた死体が発見されるが、「彼」は、この世界の住人ではなかった。
綿密な調査の結果、五万年ほど前に死亡していたことがわかった。
この死体の謎を解くべく、UNSAに召集されたのは、第一線の研究者・技術者たちだ。


なかなか想像できない、さすがSFの謎だが、その謎を解き明かす術は、私たちが現実に持っている科学の知識や技術の総動員だ。
物理学、生物学、考古学、数学、言語学、地学……の第一人者たちが、それぞれの専門分野から謎を解明しようと奮闘し、部門を越えて協力しあい、いがみ合い、激論を戦わせる。
「彼」はいったいどこからどのようにして、何のためにそこに現れ、死んでいったのか。どんな世界のどんな事情を背負っているのか。


地球を離れた星の世界での謎を解く舞台は、大方、地球の土の上――ヒューストンやポートランドの研究室や会議室だ。
登場人物は、安楽椅子の探偵ならぬ会議室の探偵たち、という感じ。


巻末の解説で鏡明さんが、この作品のことを「そう呼ぶ以外何とも言いようのないサイエンス・フィクションだ」と書いている。そして、「科学や技術について語るときの様子は、まるでオモチャを与えられた子どものように、嬉々としているのが感じられる」と書いている。
とってもよくわかる!
この科学者たちの持論の展開、変遷(嚙み砕いて説明してくれるので、難しく感じない)の生き生きとした言葉(オモチャを振り回す子どものような)に魅せられ、徐々に謎が解明されていく過程、途方もない仮定が仮定ではなくなり、それがまた二転三転ひっくり返されるスリルに最後まで夢中の読書だった。


そうして、わたしが彼らと共に夢中で歩んできたのは、生命の果てしない迷路だと気づく。
大道、横路、行き止まり。行き止まりと思えば、細い横道。思いがけない方向に、太く細く、長く短く、途切れかけて、また繋がり……。
これは、なんという壮大な物語だろう……。
生きてここにいる、ということの不思議さ、かけがえのなさとせつなさとをしみじみと味わう。


「この宇宙のどこかに、温かく、色と光に満ちた世界があるならば、われわれがして来たことから、何か意味のある結果が生まれるはずなのだ」
はるかな星の世界から、ルナリアン(月の人)の声が聞こえてくる。



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ぱせり
ぱせり さん本が好き!免許皆伝(書評数:1739 件)

いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。

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この書評へのコメント

  1. ef2022-02-18 05:37

    この作品は面白かったですよね。
    御承知の通り、三部作になっていますので、全部読んじゃおう~!

  2. ぱせり2022-02-18 05:44

    efさん、ほんと、すごくおもしろかったです!
    三部作全部……ちょっと迷っていたんですけど、やっぱり読もうかなあ(^^;

  3. No Image

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