『ミュージック・マガジン』の増刊として出版された「60年代ソウル」の特集号。執筆は鈴木啓志さん単独で行われている。紹介されているアルバムは全部で220枚のボリューム。内訳は、まず「ARTIST PICK UP」で、20名の主要アーティストを取り上げている。「70年代ソウル」との兼ね合いで選んでいないミュージシャンもいる。次に「INSTURUMENTALISTS」では、ソウルを語るにおいて(特に60年代というスタート時点で)、楽器演奏者の存在は欠かせないとの背景から、単独やバンドでアルバムを出したミュージシャンを紹介している。アーリー・ソウル期の重要人物は「PIONEERS」でまとめている。人物に関する事ばかりではなく、カントリー・ソングの影響や、各地域への広がりについても述べられている。
後は「MALE SINGERS」「FEMALE SINGERS」「VOCAL GROUPS / DUOS」の章が立てられている。「MALE SINGERS」の序章では「60'sグルーヴ」をキーワードに、ある意味ソウル・ミュージックの主流である男性シンガーの多様性を強調されている。「FEMALE SINGERS」は、ゴスペル出身者、モータウン、ニューヨークや南部、マイアミなど地域別の動きも重要視されている。70年代になると多数のソウル・グループが生まれるが、本書の「VOCAL GROUPS / DUOS」の章で取り上げられるミュージシャンは、ソウル・ミュージック史において「事前準備」の様相を呈していた。中でも大きな存在は、ドリフターズ、デルズ、インプレッションズだと言われる。他には、モータウンのグループ勢、フィリー・ソウル誕生前夜、南部の動きや新しい音楽ファンクへの流れも無視できない。個人的には、グループに関しては名前程度しか知らないケースが多いので知識として蓄えることはできた。この章は特にマニアックに掘り下げてある。
「introduction」と題された序章は「リズム&ブルースの革新と共に訪れたブラック・ミュージックの一大転換期」という理念を軸に述べられている。よく自分の経験を基にして語られる鈴木さんだが、ここでもリアルタイムの60年代を引き合いに出されている。いわゆる「ソウル・ミュージック」の概念は60年きっかりからは使われていないとの事。ビルボード誌がチャート名を「R&B」から「ソウル」に変えたのは実に69年8月。60年代も終わりかけになって「ソウル」の存在に気が付いたと言わんばかりだ。鈴木さんの周囲でも、70年代に入ってまもなく「ニュー・ソウル」と呼ばれる音楽が登場したのを機に「じゃあ、それ以前のブラック・ミュージックはソウルだ」と呼ぶ気運が高まったと言う。
60年代がスタートした時、トレンドとして取り上げられていたのは、当然50年代の音楽だった。ブルース、R&B、ドゥーワップが根底にあり、サム・クック、レイ・チャールズ、ジャッキー・ウィルソン、ジェイムズ・ブラウンといった主要人物が50年代の音楽を少しずつ変革させ、デトロイト、シカゴ、メンフィスなどで固まり、60年代終盤にはスライ&ザ・ファミリー・ストーンのようなさらに変革させる存在が生まれた。この「introduction」で述べられた「60年代ソウルのリアルな動き」を念頭に置く事が大事である。鈴木さんの、日本において初めて60年代ソウルに接した時のリアルな気持ちと自分なりの解釈から、後で気付いた事なども含め時系列を押さえて語られているのも、読んでいて「リアル」に感じる。説明的ではなく語り部的な文章なのだ。
各ミュージシャンの紹介に至っても、「60年代」に拘り(60年代に録音されその後リリースされた作品も含む)、例えばレイ・チャールズを語る場合、アトランティックが中心になりがちだが、59年にABCに移籍しているので、ABC作品がほとんどだ。そこに拘る事で「60年代のレイ・チャールズのリアル」を意識出来る。ジャッキー・ウィルソンあたりも、有名曲、有名アルバム以外も、丹念に「60年代」というテーマに沿って紹介されているので「リアル」に感じる。ジェイムズ・ブラウンの章では、新しい音楽であるファンキー・ソウル誕生に当たってのリスナーの受け止め方を「リアル」に書かれている。また逆に、ファンクの一語だけでJBを解釈する浅さにも触れている。
アレサ・フランクリンの章では、66年<コロムビア>発の『Soul Sister』を上げ、良曲を揃えたとしても60年代後半に差し掛かったこの頃から、良質のソウル・ミュージックは各地域で花開いており、この段階で“メンフィス詣で”でもしていたら盛り上がっただろうと推察。「60年代ソウルのリアル」を逆の立場から語った形になっている。もっとも、バックとの相乗効果だけでなく、アレサ本人が「ソウル感覚」をつかんだ時期が<アトランティック>に移ってからだろうとも別の箇所で述べられている。
60年代ソウルのひとつの重要な流れである「モータウン・サウンド」の完成作品としてフォー・トップス『Second Album』を上げられている。H=D=Hのサウンド作りのセンスが光る一枚との事だ。これも、リアルな60年代ソウルを感じる一文である。
「リアル」に拘る事で見えてくるものがある。たとえばウィルソン・ピケットの章では、上げられたアルバムがどれも名品である事に改めて気が付く。60年代を代表するソウルマンなのだ。サム&デイヴのラインナップにも同様のものを感じた。オーティス・レディングの章では、まだソウル・ミュージックという呼称が一般的には使われていない65年、66年のアルバム・タイトルに「ソウル」という言葉を使っているし、その魂のこもった歌い方は「わかりやすいソウルの塊」と述べられている。ソウル・ミュージックのプロトタイプがオーティスという表現は納得がいく。
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