視点がちょっと変わっているこのフォトエッセイは、「喫茶店の水」85品の写真+25編のエッセイで構成されています。
日本では喫茶店に入ったら、まず供される水。あまりにも日常的で考えてもみませんでしたが、理由としては、
1 来店客へ「いらっしゃいませ」というご挨拶とおもてなし
2 テーブルに水がある=来店客に対して初期対応済みの合図
3 水で口の中の雑味を流し、新鮮な舌でコーヒーを味わってほしい
・・・などがメインのようです。
水だけが置かれたテーブル=お目当ての料理や飲み物を待つこの状況でやることは、読書orスマホor人間観察。
けれど著者は、そのシンプルな情景の美しさを掬い上げ、ずらりと並べて見せてくれます。
水が入っているコップの形と柄、シズル感、
テーブルの材質や敷かれているクロス、
一緒に置かれたシュガーポットや、調味料入れ、今は珍しくなった灰皿、
背景の壁やカーテン、窓からの自然光や夜の照明の色・・・
そんな店の極小さな一か所を切り取ったその情景の美しさは、この四角い写真の周りにある音や香りをも感じさせてくれるのです。
とはいえ、写真の美しさを堪能するだけでおさまらず、物語を探してしまう自分がいます。その延長線として、素敵な写真のお店に行ってみたくなるわけです。
中でも特に素敵なのが、エッセイ「コップの種類を変えてくれる喫茶店」で紹介された「Botanic Coffee Kyoto」さん。
初めて伺った時、ご店主に「コップの水を撮っている」「変わったコップに会うと嬉しい」と話した著者は、すっかりそのことを忘れていた。けれど行く度にそのお店は、毎回違う綺麗なグラスを出してくれた。5回以上も!そのさりげなさこそ「おもてなし」。
グラスもテーブルクロスも全部違っていて、すごく気になったのでグーグルマップで調べたら、予想以上に素敵なお店でした!
ただ・・・京都のお店なので気軽に行けないのだけが残念・・・。
写真の下に小さくお店の名前と場所が書かれていますので、気になるところはこんなカンジで調べるとこれまた楽しいです。
憧れの「喫茶ボンボン」(名古屋)・「六曜社珈琲店」(河原町三条)
グラスの素敵な「麦丸京都」(北白川・閉店)・「喫茶 水鯨」(阿波座)
水よりテーブル筐体が気になる(笑)「パインツリー」(熱海)・「ジュリアン」(藤沢)
すぐに行けそうなところはチャレンジする楽しみが、遠いところはいつか旅行のついでに寄りたい!と妄想が芽生えてしまいます。
とりあえずは、よく行く近所の喫茶店でテーブルに置かれた水を眺めてみましょうか。
当たり前に潜む美しさに、また新しい世界が広がるかもしれません。
ちょっと変わった写真集がお好みの方、喫茶店をこよなく愛する方すべてに、本書をお勧めいたします。
この書評へのコメント