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日本で農業を盛んにするためには、農作物の相対的な価値が下がらなくてはいけない。という、逆説的な流れもよく分かる、丁寧に経済を解説してくださる一冊でした。

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!1級
  • そのとき、日本は何人養える?: 食料安全保障から考える社会のしくみ
  • by
  • 出版社:家の光協会
そのとき、日本は何人養える?: 食料安全保障から考える社会のしくみ
ツイッターで見かけて興味を持ったので読んでみた本。
ここ最近の物価高に関する補助線的なものを得られれば・・・と思ったけれど、
思ったより奥深く、大変に勉強になりました。

農業は大切。だけど、なぜ日本は農業が発展しにくいのか。
そもそも日本は農業が発展しているのか?。
海外は(特にヨーロッパ)はなぜ、対してお金にならない農業を、補助金を出してまで続けているのか。
なぜ、電気を作るのにも石油を使っているのに、電気自動車を流行させようとしているのか。

大変に素朴ながら、答えのなかった問の答えをやっと得られました。

農業は、数少ない、新たにエネルギーを生み出すことができる産業。
農業には石油が必要。が、エネルギー収支的にはマイナス。(農業で作れるエネルギーよりも、農業に使うエネルギーの法が多い)。
農業をすればするほど、利用可能なエネルギー量は減っていっているはず・・・なのですよね。

石油には限りがある、という当たり前の前提は、今すぐ使えなくなる状況というのは現実的でないので見過ごされがちですが、だからといって全く考えなくてもいいというわけではないですよね。

そして、金額ベースで農業を考えるのは誤謬があるということ。
農業は「生きるために必要な産業」であり、食費の出費をゼロにすることはできない。
だからこそ、食品の価格が低い(農業のGDPが低い≒エンゲル係数が低い)」状態で、
自由に使えるお金が多ければ多いほど、国は豊かになり、経済成長しやすい。
消費に重きを置くケインズ経済学の性格もここで理解しやすくなりますね。

そして何より、生きるために必要な「食糧」は必要不可欠であるがゆえに多量に作られ、
余剰が生じるため、価格は低くなる。
必須だからこそ価格が低くなる、というのは大変に面白い現象だなとも思います。

特にヨーロッパは農作物の値段を下げるために、農家に補助金を出している。
農家は、作物が安くても補助金で生活できる。
国民は、農作物が安いので、娯楽にたくさんお金を使える。
農作物は工業製品と違って「不足」が一番怖いので、余剰に作る。
余剰分は、格安で途上国に売れば良い。格安でも構わない。だって、農家は補助金で生活してるから。
だからこそ、国は「関税」で国内の市場価格を調整するのですね。
安い食べ物が手に入ってラッキー!ではないんですね。自国の農業を守るのですね。

そうやって経済というものは回っているのですねぇ。
単純に、農作物の価格を上げたり、農家を守るだけでは、農業は守られていかないという・・・

ただ最近は、大規模農業では、「街」が形成されにくく、郊外で生活には不便
(人口が少ないので、映画館も理容院もない!)となることがまた問題になるそうな。
やはり、理屈でなく、実際に存在している人が、一人ひとりが行っている営みなんだなぁと再認識。

日本は比較的、農業以外の産業が豊かであるため、農業を続けることができているのですな。
逆に、農業を主要産業にしようとすると、むしろ農業が衰退していってしまうという・・・
面白い現象ですね。

また、エネルギーと電力の違いも目からウロコでした。
自然エネルギーの発電は、私が小さい頃には想像もできないくらい大きなシェアとなっています。
その一方で、電力だと「パワーが足りない」。船や飛行機、大型の機械を動かすためには、エネルギー密度の高い石油を使わなくちゃいけない。
逆に、電気自動車は、意外とエネルギー効率がよく、電力でもちゃんと走れる。
自然エネルギーで発電することはできても、大型の機械を動かすことはできない。
逆に言えば、電力でも動かすことのできる車は、電力を活用していく方向になるのは、案外自然なんだなと感じました。かなり、電気自動車に対するイメージが変わりました。

食糧と食料の違いも地味に勉強になりました。

とかく、農業に関して考える枠組みをたくさん提供してもらった気がします。
これで、世の中の見え方が結構変わってくるきがしています。読んでよかった一冊。

以下書き抜き。

・食料問題の解決は、食料をたくさん作ることでも、みなが農家になることでもない。

・世界のほぼ半分の人口が工業力を獲得し、工業製品は誰にでも作れる「安っぽいもの」になりました。

・「経済」というのは農業や食料に関しては非常に奇妙な、私達の常識とかけ離れた動きをする。食料をたくさん作るから飢えることがあり、食料を送るから飢える人が出たり、食料を作っている人自身が飢える場合まである。

・食糧は不足すると命に関わるから、国民全員を養うためにも余分に確保する必要がある。しかし安全余裕である「余分」は、食べきれない分は食品ロスになる。食品ロスは、安全余裕を確保するためにどうしても発生するものだと考えたほうが良い。

・大規模農業は、人をコストとみなしてなるべく人件費を抑えようとする傾向がある。しかしそれがゆえに、地域社会が成立しないほど人が減るリスクが有る。そうなれば将来、耕作地の荒廃を抑えるのは難しくなる。人間は、効率性だけで生きられる生き物ではない。

・戦後昭和の日本では、農業は絶大な政治力を持っていた。第二次世界大戦終戦から5年後の1950年、働く人の半分近く(45.1%)が農家だった。都会に住んでいる人も多くは元農家。何しろ、江戸時代が終わって14年後でも八割近くが農家だったのだから。

・(ニクソンショックをどうやって乗り越えたのか、という文脈で)いわばドルは、「石油兌換紙幣」になったのだと言える。こうして石油と密接に結びついたドルのことを「ペトロダラー」ともいう。
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  • 掲載日:2022/12/29
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