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ほぼ100字で広がる宇宙

100文字SF
以前にも書評を書いた、ほぼ100字の小説シリーズの再編文庫版。以前の書評で、SNS全盛の時代にあえてSNSより短い文章を本で届ける意義を説いたが、そもそもこのシリーズはSNS発だったらしい。なんだあ、読みが外れたなあ。でも短い文章だからこそ想像力が働いて、自分の感性と噛み合ったときのグッとくる感覚、このシリーズの本質は変わらないはずだ。
この年齢になって初めてエロ同人誌に参加するなんて思わなかったよなあ。いやむしろ、この年齢だから、なのか、乗っている肉体の衰えを感じて、乗客が逃げ出そうとしているのかも。救命ボートで脱出するみたいにね。

以前のシリーズは児童書の体裁だったため、こうした言葉は選べなかっただろう。「肉体の衰え」という生々しい言葉も相まって、なんとも不思議な読み心地を残す。

冷凍睡眠装置の調子が悪く睡眠槽の周囲が霜だらけで、自動霜取り機能もうまく働かないから手動でやったら船内びちゃびちゃ、あわてて雑巾で拭いているという夢を今見ているのだが、この冷凍睡眠装置、大丈夫かなあ。

SFの定番である冷凍睡眠と、霜取りに追われる生活感。夢と現実が溶け合うような曖昧さとユーモアの交錯は、いかにも著者らしい一作だ。

夕方、宇宙ステーションが通過するので公園へ。何度もここで見ているから、どこを通るのかはわかっている。廃工場の三角屋根の端から現れてジャングルジムの真上を通りブランコの彼方へ。宇宙飛行士も知らない軌道。

ほぼ100文字という制約もあってか、このシリーズはシュールでホラーなワンシーンを切り取ったものになりがちだ。その中でこの作品は、ジュブナイル小説を思わせる稀有な一編。読み終えたとき、そこから物語が始まりそうな予感が残る。

これだけ数が揃うと自分の頭が考えそうなことは大抵はいっていて、そう言えばこんなのを書いてたな、とすぐに百文字で取り出せるようになって便利。でも同時に、これさえあればもう自分はいらないのでは、とも思ったり。

100文字小説を書き続けたからこそ辿り着ける境地。この一作のために、ここまで積み上げてきたのではと思うほどだ。

失うものなど無い者だらけになったから、その対策として失うものなど無い者の間に上下を作る。失うものなど無い者を無くすための対策ではなく、失うものなど無い者たちから、さらにエネルギーを取り出すための対策。

現代社会の風刺に読めてしまう。「無敵の人」という言葉が飛び交う現状をどうにか救えないかと思うが、その「救い」すらもエネルギー搾取のシステムに過ぎないのか……。

100字という限られた枠に、SFあり風刺あり達観あり笑いあり。読者の想像力と感性に委ねることで、むしろ世界は無限に広がる。著者が積み上げてきた膨大な100字は、読むたびに自分の感性を試してくる。

ところで、最後の段落はほぼ100字になっている──はずだ。
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  • 掲載日:2026/05/15
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