物語のあらすじは、売れない劇団員がある日突然、総理大臣の替え玉に仕立て上げられ、さまざまな問題に対応していく中で、総理大臣として成長していくというものです。
物語は、替え玉にされた主人公が三つの敵と戦う姿を軸に展開します。
①最初の敵は、自らを正義と信じ、ポピュリズムを先導するマスメディア。
②二つ目の敵は、自分たちの省益のために法案すら意図的に変えてしまう官僚たち。
東日本大震災の復興の現状を視察し、復興が進んでいない実態や、復興予算が本来とは無関係な用途に流用されている状況に主人公が激怒する場面が描かれます。
・被災地以外の道路・施設整備(4820億円)
・沖縄の国道整備(20億円)
・武器車両整備(670億円)
・NHK大河ドラマキャンペーン(34億円)
・ご当地アイドルイベント支援(30億円)など
これらは、「被災地支援」→「東日本大震災からの復興支援」→「活力ある日本の支援へ」と、官僚によって目的が書き換えられ、当初の趣旨から大きく逸脱した予算処理が行われていたというノンフィクションの事実を踏まえて描かれています。作品はこうした要素を通じて、日本の課題や矛盾を浮き彫りにしています。
これらの敵に立ち向かう主人公の武器は、庶民感覚と無知ゆえの青臭さのみです。その青臭さで真正面から挑む姿に、政治家の理想像を重ね、感情移入する読者も多いのではないでしょうか。
そして最大の事件が勃発します。
③中東の日本大使館にテロ組織が侵入・占拠し、日本人を人質にフランス政府へ「仲間の全員釈放と身代金」を要求します。犯行グループは、24時間後以降、1時間ごとに人質を殺害すると予告し、実際にそれを実行。その様子はネットで全世界に公開されていきます。
この最大の危機の最中、本物の総理大臣は死去。さらに、主人公を支えていた官房長官も過労により同日に亡くなってしまいます。大事件にたった一人で立ち向かい、決断し対処する主人公の姿は非常に感動的です。(その後に描かれる、洒落た結末も見どころです。)
また、政治に無関心で仕組みもほとんど理解していなかった主人公が、総理として職務を果たしていく過程を通して、読者は政治の基本的な流れや仕組みを自然に理解できます。さらに、経済政策をめぐる描写から、日本経済の構造や現在抱えるさまざまな課題・矛盾についても考えさせられます。
物語の中で主人公は、折に触れて国民に向けて演説を行います。官僚が作文した空虚で全く心に響かない演説ではなく、心からの思いがあふれる言葉で、耳の痛いことも率直に語りかけるその姿に、トップリーダーの理想像を感じることができるでしょう。
政治に興味がない方にこそ読んでほしい、一冊です。読み終えたとき、きっと今の日本について、誰かと語り合いたくなるはずです。
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