ゆうちゃんさん
レビュアー:
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19世紀初頭のロシアの作家クルイロフの寓話集。人間の愚かさを主に動物に例えて笑っている。203編もあり大半が1,2頁で読める作品。
クルイロフは、19世紀初頭の作家。役人や将軍の秘書をしながら文筆活動を続けた。本書は、ロシア版イソップ物語と言った感じで、動物同士を中心に、時には人間と動物や人間と道具、家具と会話をさせ、人間性、特にロシア人の特性を浮かび上がらせている。全体は(九巻)+(どの巻にも収められなかった作品五編)から成っている。全部で203編ありうち37編はイソップかラフォンテーヌの寓話から題材を取っている。題材を取っていると書いたが、どこかで読んだことがあると思う作品(つまりイソップで有名な話)がほぼそのまま採用されている場合もある。
自分が面白いと感じた作品を幾つかピックアップする(*は著者の見解)
身につまされる話として以下が面白かった。
第一巻(20 三人の妻を持つ男)
ある身持ちの悪い男が更にふたりの女をめとった。こういうことに厳格な皇帝は裁判官に二度と起きないように厳しい刑に処するようにと命じた。刑に効果がなかった場合には裁判官を絞首刑にすると言う。裁判官たちは困ったが神が知恵を授けてくれた。「三人の妻は全員罪人に引き渡すべし」。国民は皇帝が怒って裁判官たちを絞首刑に処すると思ったが、その男は四日も経たないうちに自ら首をくくってしまった。以後、この国では妻を三人娶った者はいない。
善行とは何かを分かり易く説明した寓話として下記がある。
第三巻(19 牝鹿と托鉢僧)
若い牝鹿が子供を亡くして乳が張っているので狼の子を見つけ乳をやった。それを見た回教の托鉢僧が、向こう見ずで結果を見ない、そのうち奴らに殺されるのだ、と言った。牝鹿は、そうかもしれないが、そんなことは考えたことはないと答えた。
*だから本当の慈悲は報われることが何もなくとも善を行う。
宗教にかかわる話ならこれ。
第八巻(3 百姓と馬)
百姓が燕麦を畑にまいていた。それを見た馬は無駄なことをすると思った。だが秋になり燕麦は収穫され、百姓はそれを馬に食わせてやった。
*人間はこれと同じように、神の目的も手段も知らずに途方もない無知で神意を推し量っているのではないだろうか。
政治的な寓話はこんな感じ。
第八巻(10 鋼の剣)
鋼の鋭利な軍刀の刀身が鉄屑の中に投げ込まれた。それはただ同然の値段で百姓に売られ、樹皮靴用の樹皮剝ぎ、灯火用の木切れを割り、その他の雑用に使われた。1年も経たないうちに刃こぼれし、子供がそれにまたがって走り回っている。針鼠が「おまえさんの一生として恥ずかしくないのか?」と訊く。鋼の剣は「ここでは私の才能も何の役にも立たない。だが恥ずかしい思いをするのは私が何の役に立つのかわからなかった者だけだ」と言った。
*この寓話は、ナポレオン戦争の勝利に貢献しながらデカブリストに心を寄せたためにニコライ1世によって退役させられたA・P・エルモーロフ将軍の運命を念頭に置いてかかれている。
イソップならぬ猿蟹合戦に似た話も。
第九巻(7 二人の少年)
フェージャがセニューシャに栗の実を取って食べようと言った。だが、セニューシャは栗の木は高すぎてダメだと言った。フェージャは一番低い枝に登らせてくれれば何とかすると言った。セニューシャはフェージャを登らせたが、フェージャは栗がたっぷりあったにも関わらず、自分が栗を食べるだけで殻をセニューシャに投げるだけだった。
*世間ではフェージャの様な人間をたくさん見かける。
貴族を皮肉った作品はこんな感じ。
いずれの巻にも収められなかった寓話(3 孔雀と鶯)
物理の素養はないが音楽に精通している貴族が鶯の鳴き声を聞いて鳥籠の中でそう言う鳴き方をする鳥を飼ってみたくなった。だがその貴族は鶯を見たことがなかった。この貴族は外見で鳥を見てやろうと思い、町の鳥屋に行き孔雀と鶯を見て、孔雀の立派さに心を奪われた。「この孔雀はきっと立派な声で鳴くだろう」。鳥屋「孔雀にうまい歌は無理だ」と言われても却って彼の勧める鶯が貧相に見えるし、綺麗な歌など歌えるはずがないと言う。貴族は孔雀を買って家に持って帰ったが、孔雀は猫の様な声で10回ほど鳴き羽を見て声を選ぶことの愚かさを知らせてやった。
寓話であるが故にお説教臭さはあるが、どれも内容は分かり易い。だが、明らかに大人向けの話である。政治的な寓話もいくつかあったが役人という仕事柄、執筆の自由はあまりなかったらしい。また政治的な寓話であるが故に、内容は陳腐化しがちで、時代背景がわからないと言いたいことがわからないという作品もある。
クルイロフは、プーシキンに評価され、また彼の寓話からロシア語の諺も幾つか生まれているそうだ。外国産の話もありすべてがロシア人の性向を表したとは言えないが、どれも肩の凝らない作品であり、ロシア文学入門くらいの感じで手にするとよいかもしれない。
自分が面白いと感じた作品を幾つかピックアップする(*は著者の見解)
身につまされる話として以下が面白かった。
第一巻(20 三人の妻を持つ男)
ある身持ちの悪い男が更にふたりの女をめとった。こういうことに厳格な皇帝は裁判官に二度と起きないように厳しい刑に処するようにと命じた。刑に効果がなかった場合には裁判官を絞首刑にすると言う。裁判官たちは困ったが神が知恵を授けてくれた。「三人の妻は全員罪人に引き渡すべし」。国民は皇帝が怒って裁判官たちを絞首刑に処すると思ったが、その男は四日も経たないうちに自ら首をくくってしまった。以後、この国では妻を三人娶った者はいない。
善行とは何かを分かり易く説明した寓話として下記がある。
第三巻(19 牝鹿と托鉢僧)
若い牝鹿が子供を亡くして乳が張っているので狼の子を見つけ乳をやった。それを見た回教の托鉢僧が、向こう見ずで結果を見ない、そのうち奴らに殺されるのだ、と言った。牝鹿は、そうかもしれないが、そんなことは考えたことはないと答えた。
*だから本当の慈悲は報われることが何もなくとも善を行う。
宗教にかかわる話ならこれ。
第八巻(3 百姓と馬)
百姓が燕麦を畑にまいていた。それを見た馬は無駄なことをすると思った。だが秋になり燕麦は収穫され、百姓はそれを馬に食わせてやった。
*人間はこれと同じように、神の目的も手段も知らずに途方もない無知で神意を推し量っているのではないだろうか。
政治的な寓話はこんな感じ。
第八巻(10 鋼の剣)
鋼の鋭利な軍刀の刀身が鉄屑の中に投げ込まれた。それはただ同然の値段で百姓に売られ、樹皮靴用の樹皮剝ぎ、灯火用の木切れを割り、その他の雑用に使われた。1年も経たないうちに刃こぼれし、子供がそれにまたがって走り回っている。針鼠が「おまえさんの一生として恥ずかしくないのか?」と訊く。鋼の剣は「ここでは私の才能も何の役にも立たない。だが恥ずかしい思いをするのは私が何の役に立つのかわからなかった者だけだ」と言った。
*この寓話は、ナポレオン戦争の勝利に貢献しながらデカブリストに心を寄せたためにニコライ1世によって退役させられたA・P・エルモーロフ将軍の運命を念頭に置いてかかれている。
イソップならぬ猿蟹合戦に似た話も。
第九巻(7 二人の少年)
フェージャがセニューシャに栗の実を取って食べようと言った。だが、セニューシャは栗の木は高すぎてダメだと言った。フェージャは一番低い枝に登らせてくれれば何とかすると言った。セニューシャはフェージャを登らせたが、フェージャは栗がたっぷりあったにも関わらず、自分が栗を食べるだけで殻をセニューシャに投げるだけだった。
*世間ではフェージャの様な人間をたくさん見かける。
貴族を皮肉った作品はこんな感じ。
いずれの巻にも収められなかった寓話(3 孔雀と鶯)
物理の素養はないが音楽に精通している貴族が鶯の鳴き声を聞いて鳥籠の中でそう言う鳴き方をする鳥を飼ってみたくなった。だがその貴族は鶯を見たことがなかった。この貴族は外見で鳥を見てやろうと思い、町の鳥屋に行き孔雀と鶯を見て、孔雀の立派さに心を奪われた。「この孔雀はきっと立派な声で鳴くだろう」。鳥屋「孔雀にうまい歌は無理だ」と言われても却って彼の勧める鶯が貧相に見えるし、綺麗な歌など歌えるはずがないと言う。貴族は孔雀を買って家に持って帰ったが、孔雀は猫の様な声で10回ほど鳴き羽を見て声を選ぶことの愚かさを知らせてやった。
寓話であるが故にお説教臭さはあるが、どれも内容は分かり易い。だが、明らかに大人向けの話である。政治的な寓話もいくつかあったが役人という仕事柄、執筆の自由はあまりなかったらしい。また政治的な寓話であるが故に、内容は陳腐化しがちで、時代背景がわからないと言いたいことがわからないという作品もある。
クルイロフは、プーシキンに評価され、また彼の寓話からロシア語の諺も幾つか生まれているそうだ。外国産の話もありすべてがロシア人の性向を表したとは言えないが、どれも肩の凝らない作品であり、ロシア文学入門くらいの感じで手にするとよいかもしれない。
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神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。
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- 出版社:岩波書店
- ページ数:303
- ISBN:9784003264713
- 発売日:1993年09月16日
- 価格:735円
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