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ゆうちゃん
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実業家マガンハルトをブルターニュからリヒテンシュタインまで送ると言う危険な仕事を請け負ったルイス・ケイン。だが誤算続き。雇ったガンマンはアル中、マガンハルトは連れがいる。ルイスの計画は成功するか?
これもラジオドラマで知った作品である。

かつて通称カントンと言う名のレジスタンスの闘士だったルイス・ケインは、パリで旧知の弁護士アンリ・メランからマガンハルトと言う実業家をリヒテンシュタインに送ってほしいと頼まれた。マガンハルトは婦女暴行罪でフランス警察に追われている。だがこれはでっちあげの可能性が高い。ケインはマガンハルトのリヒテンシュタインの業務が法に違反していないことを条件に仕事を引き受けた。腕利きのガンマンと8千フランの前金、4千フランの事後報酬も条件である。弁護士メランは、腕利きのガンマンとして欧州3番手のハーヴェイ・ロヴェルをケインに送ると言う。
仕事を引き受けたケインは、マガンハルトの車をカンペールで受け取りガンマンのロヴェルと落ち合う。だが既にその車の運転手は殺されていた。マガンハルトはヨットで大西洋におり、ブルターニュの海岸でマガンハルトを拾う。フランスの警察、そしてマガンハルトのリヒテンシュタイン入りを阻止する敵方の妨害を避けながら、目的地のリヒテンシュタインを目指す。しかしケインの計画は誤算続きだった。前述の通り運転手が殺されていた。ガンマンのロヴェルはアル中だった。マガンハルトは秘書のヘレン・ジャーマンを連れていた。そのうち、マガンハルトを下ろしたヨットはフランス領海にとどまり乗組員が警察に捕まるとラジオのニュースで知る。彼らは、マガンハルトのことをしゃべったと想定しなければならなくなった。ルートを変更し、ケインはレジスタンスの伝手を頼りながら、警戒が厳しそうなスイスの北側の国境を避け、やや南回りで入国を図る。レジスタンスの仲間のところで泊めてもらったが、そこから先、漏れる筈のないケインらの動きが敵に筒抜けだとわかってきた。その敵の攻撃を躱し、難しいルートで、もうひとりの別のレジスタンスの仲間のところに転がり込んだ。そこで、マガンハルトは自分がリヒテンシュタインで何をしようとしているか漸くケインに明かした。

しゃれたハードボイルド小説である。暴力の連続なのだが、血なまぐささはそれほど感じない。一方で小説全体に緊迫感が漂っている。ケインの引き締まりながらも、しゃれた会話がそう言う効果をもたらしているのかもしれない。純文学には純文学の、ミステリにはミステリの会話の良さがあるが、本書はハードボイルドの会話の味を示した作品だと思う。予想外の事件の連続を切り抜けるケインの頭の良さは、著者の工夫。ケインと言う主人公は最後までブレない、主人公の魅力でひっぱる小説でもある。
実はマガンハルトがリヒテンシュタインに行かねばならないのは、税逃れのために設立した会社のためだった。ケインの道義感との両立は出来るのか、がひとつの論点だが、「私は道義性は相対的なものだ(91頁)」とある。この観点はそのまま受け入れよう。そうしないとこの小説は楽しめない。
せっかくなのでしゃれた会話の一端を示そう。場面はフェイ将軍を名乗るあるシンジケートの親分の家。どうもケインとは知り合いだったらしい。ガンマンのロヴェルは、壁に飾られた銃のコレクションを「こんな飾りが銃の開発を遅らせた」と評する。だが老練なフェイ将軍は、ロヴェルから飾りをとればアル中がばれるのでは?と相手の痛い所を突く。喧嘩になりそうなので潮時だと出発を告げるケインとフェイ将軍との間で会話が交わされる。
「君(ケイン)自身どうしているのだ?」「私?自分が常に正義の側に立っていると思い込むんですよ」。「ほう。だが、そういうやり方の方がもっと難しい。そういうのは、すぐ中身をさらけだすからな」。私(ケイン)は頷いた。「で、あなたはどうやっているのですか?」彼は、ゆっくりと椅子に寄りかかって、目を閉じた。「ロヴェル氏が言ったように、金線と彫刻で飾っているのじゃよ。その方が長持ちするでな」。「そうだといいんですが、代将(プリケディア)」。目が薄く開いた。「気が付いたか?」「あなたの時代には、大佐のひとつ上の階級は代将でしたよ。1920年代には将(ジェネラル)と言う字もつけなくなっていましたね」「わしがなった頃にはまだ<ジェネラル>がついていたのじゃ。だから・・・」また目を閉じた。「飾りに使っているのだよ」「さよなら、閣下」
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1677 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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