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efさん
ef
レビュアー:
一体自分の記憶はどうなっているんだ?な一冊
 図書館が貸出、返却業務を再開したので、手持ち本再読シーズンも本書で最後になります。
 最後に選んだのは何十年振りかの久々の再読、『ロリータ』です。

 で、再読してみて驚愕!
 私の記憶に残っていたストーリーとまったく違うじゃないですか!
 私は一体何を読んでいたのだろう?と情けなくなるほどです。

 記憶に残っていたのは、ハンバート・ハンバートという少女を偏愛する男が、母親と二人で暮らしているロリータに魅かれ、何とかロリータをものにしようとするものの、母親にも好意を寄せられてしまい、その板挟みになる。
 ハンバートは、そんな状況の中でとにかくロリータに手を出そうとするのだけれど、残酷なロリータの振る舞いに翻弄されてしまい、思いを果たすこともできないまま結局破滅するというものだったのですが、全然ちがうじゃん!
 どうして頭の中でそういう風に『変換』されちゃってたんですかねぇ。
 まあ、違うということを認識できただけでも再読した価値があろうかというものです。

 正しい粗筋は以下のとおり。
 ハンバートが少女性愛嗜好者であることは記憶のとおり。
 母親と二人暮らしの12歳のドロレスに溺れてしまうこともその通り。
 ハンバートは、ニンフェットであるドロレスをロリータと呼ぶのですね。
 ところが、結構ハンサムなハンバートは、母親の家に下宿しているのですが、母親からも愛を告げられてしまうというところまでは記憶は正しかった。

 ここでハンバートは、もし母親と結婚すれば、ロリータと一緒に暮らせる(母親は、ロリータの家庭教師をハンバートに頼みたいなどとも話していましたし)。
 そうすればロリータを自分の物にするチャンスが生まれるなどと考え、あろうことか意に沿わない母親との結婚を承諾してしまうんです。
 しかし、母親は、ロリータをキャンプに行かせてしまうばかりか、キャンプから帰ってきたらお嬢様学校に通わせるなどと言い出すので計画が狂ってしまいます。
 しかも、それまでハンバートがロリータへの思いを書き綴っていた日記を読まれてしまうんですね。

 日記を読んで激怒した母親はハンバートとの離婚を切り出し、あの娘だけは絶対に好きにさせないと言い捨てます。
 しかも、それらの事情をロリータ宛てその他の手紙に書き綴っているではないですか。
 万事休すか。
 何とか言いくるめられないかと考えているハンバートは電話が鳴っていることに気付きます。
 「奥さんが事故に遭った」

 なんと、書き終えた手紙を投函しようと家を飛び出した母親は、通りかかった車にはねられて亡くなってしまうのです。
 なんということだ……。
 母親が書き綴った手紙もハンバートの手に落ちました。
 ここからハンバートの破滅的な生活が始まるのです。

 ハンバートは、ロリータのキャンプ先に、「母親が病気になって入院した」という電話をかけ、キャンプ場までロリータを車で迎えに行きます。
 ハンバートは睡眠薬を用意しており、これから、この薬を使ってロリータを眠らせ、自分の好きにしようと考えていたのです。
 ハンバートは、以前、母親が話していた素敵なホテルを予約し、ロリータを車に乗せてホテルに向かいます。
 なんと好都合なことに、予約したツインの部屋は埋まってしまっており、ダブルの部屋しか空いていないとか。

 ハンバートは上手く騙してロリータに睡眠薬を飲ませ、ぐったりしたロリータをベッドに寝かせます。
 薬がちゃんと効くのを見計らってベッドに入ると、なんと、ロリータは眠り込んではいなかったのです。
 どうやら、ハンバートが口うるさく医師に頼み込んでもらってきた『睡眠薬』は偽薬だったようなのです。
 しかも、ロリータはキャンプで色々と経験していたらしく、ロリータの方から身体を寄せてくるではないですか。
 とにかくも、思いの丈を果たすことができたハンバートは、それ以後、ロリータを車に乗せ、全米各地を走り続け、安モーテルに泊まってはロリータを愛し続けるのでした(母親が事故で亡くなったこともロリータには話しています)。
 これが何と1年も続くんですよね。

 少女がニンフェットでいられるのは15歳くらいまでだ。
 そうハンバートは考えています。
 その後は……?
 ロリータとは血はつながっていないので、ロリータと結婚することもできるだろう。
 そうすればロリータ二世が生まれる。
 あるいは、さらに自分の身体が言うことをきけばロリータ三世だって……。
 なんとも醜悪なことを考えたりもするのです。

 しかし、さすがに1年も旅を続けていると、ロリータの方からもまともな生活はしないのか?と言われてしまいます。
 そろそろ潮時だろうか。
 ハンバートは、ロリータを学校に行かせる決心をし、学校の近くに家を借り、そこでロリータとの生活を始めるのです。
 ハンバートは、ロリータの生活を制約しようとするのですが、猜疑心ばかりが募っていきます。

 そして、ある時、ロリータが、学校なんてもう嫌だと言い出したのをきっかけに、二人でまた自動車の旅に出てしまうのです。
 メキシコにでも行って、そこでロリータと結婚してしまえば良いなどと考え。
 ところが、その旅の途中で、自分たちの車を追ってくる男がいるのではないかという疑いを持ち始めます。
 ロリータも時々誰かと連絡を取っているようにも思えるのです。
 そして遂に、ロリータは姿を消してしまうのでした。

 警察に届け出るわけにはいかない。
 ハンバートは、心当たりの場所、モーテルを回ってロリータを探し始めるのですがまったく見つけることができずに月日だけが過ぎていきます。

 もはやロリータを諦めなければならないのか……。
 自分の嗜好もロリータを失ったことで終わりか。
 ハンバートは、だらしのないリタという成人女性を拾い、今度はリタと生活し始めるのですが、しばらく後、ロリータからの手紙が届きます。
 ロリータはある男と結婚して妊娠していると言うのです。
 できればお金を援助して欲しいという手紙でした。

 ハンバートは、ロリータを妊娠させた男を殺すことを決意し、拳銃を持ってロリータを再び探し始めるのです。

 とまあ、これが本当のストーリーでした。
 ラストはもう、とんでもない話になってしまいます。
 ハンバートが破滅したというのは記憶通りではあるのですが、ハンバートとロリータのロードストーリー的な部分がごっそり抜け落ち、また主要な点がまったく欠落した記憶になっていたとは……とほほ。

 ある意味で非常に醜悪な物語であることはその通りでしょうし、この本が出版された時にポルノ論争が巻き起こったというのもさもありなんとは思います。
 ですが、他方で非常に凝った物語になっていることも間違いなく、あちこちに伏線というか、仕掛けが山盛りになっているのですね。
 新潮文庫版でも、それなりの注がついていますが、注で触れられていない点も多々あります。
 注釈本も出ているということですが、これを読みこなすには注釈本、必要かもしれません。

 単に扇情的なポルノまがいの作品ではないということは間違いないと思います。
 ナボコフの作品は色々読んできているのですが、本作がナボコフの代表作的に言われるのはどうよ、とも思うんですよね。
 それだけ衝撃的な作品だったというのはその通りなのでしょうけれど、ナボコフってもっと違った作品も沢山書いているんだけれどなぁという思いも強く抱きます。
 どうか、本作だけを読んでナボコフってこういう作家なんだで終わってしまうことだけはありませんようにと、願うのですけれどね。


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ef
ef さん本が好き!1級(書評数:4907 件)

幻想文学、SF、ミステリ、アート系などの怪しいモノ大好きです。ご紹介レビューが基本ですが、私のレビューで読んでみようかなと思って頂けたらうれしいです。世界中にはまだ読んでいない沢山の良い本がある!

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