書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

Wings to fly
レビュアー:
「生きがい」について考察する本書は、人が最も大切に抱いて人生を歩んでゆくべきものを示唆している。
「ボーっと生きてんじゃねーよ!」というセリフを耳にしたこともおありだろう。日々の平穏に流されていたら、何かを突き詰めるように考える機会は少ない。しかし、大きな悲しみや不幸が訪れると、「何のために生きているのだろう。」とか、「人生に何の価値があるのだろう。」と考えてしまうのが、人の性というものだ。生きる希望を失って命を絶つ人だっている。本書で追及されている生きがいの問題は、人間みんなの問題なのである。

私たちの生活を生きる甲斐あるように感じさせているものは何か。
一度生きがいを失ったら、どうやってまた新しい生きがいを見いだすのか。
著者はこのふたつの命題を柱として、精神科医としての経験、心理学、文学、哲学、伝記など広範囲の書物を参考に、とらえどころのない心の問題に迫ってゆく。

活動的な人であれ思索に生きる人であれ、生きがいとは生存の充実感なのだと著者は言う。
自分は誰かに必要とされているか。生きてゆく目的は持っているか。その目的に忠実に生きているか。
この三つから判断して、自分は生きている資格があるか。
人間とはなんと弱い生き物なのだろう。常に自己肯定しないと生きていられないとは。そして、大きなショックに襲われると闇の中に転落してしまう。

生きがいの喪失とはつまり、精神的な打撃からくる破局感が価値体系を崩壊させることだそうだ。絶望に陥った時の心の状態が、過去の事例を挙げて明瞭に示される。だが、「人が苦しみの中から得たものは、外から情報として得たものと違い、一生失われることはない。」というように、苦悩に寄り添うように綴られてゆく言葉こそ、本書の魅力だと思う。

なんだか癒されるのである。「精神的な打撃からくる破局感」も、客観的に観察すると、実体がはっきりして立ち向かい易くなるのかもしれない。新たな生きがいを求めようとする心について読み進めるにつれ、千差万別だと思っていた人の精神には共通な地盤があり、不思議なほど強い力が秘められていると感じるようになった。

著者が本書を書こうと思ったのは、ハンセン病に罹り隔離されて大きな苦しみの中にいた人々に出会ったからだという。
生きとし生けるものと心を通わせること。物事の本質を探り、考え学び、理解すること。豊かなイメージや音を作り出し、また味わうこと。世の中からはじき出された人にも平等に開かれている喜びとは、人間の命と人格から湧き出るものだ。それは最も大切に抱いて人生を歩んでゆくに足るものだと、本書は語る。

「科学道100冊2019」の一冊である。大きな人間愛に包まれるような気持になる。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

読んで楽しい:3票
素晴らしい洞察:1票
参考になる:23票
共感した:2票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. かもめ通信2020-03-28 16:20

    なんだかうるっときちゃった!に1票。

  2. Wings to fly2020-03-28 19:54

    あら嬉しい(^^)
    ありがとうございます╰(*´︶`*)╯♡

  3. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『生きがいについて』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ