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星落秋風五丈原
レビュアー:
失敗した大使そのいち
 大使たち、と聞くとすわ冷戦時代にスマイリーよろしく国際舞台を股にかけたプロフェッショナルたちの活躍を描いた作品?と思うが、実際の所は別の訳書『使者たち』の題名の方が、実際の彼等の果たした役割に近い。

 金持ちの子息チャドがしかるべき結婚相手がいるにも関わらず一向にパリから帰国しない。きっと悪い女にひっかかったからに違いない、と様々な理由から心配した母親ニューサム夫人から、これも様々な思惑から連れ戻す使命を帯びた55歳のアメリカ人男性ストレザーが、まずは使者として登場する。いわば『太陽がいっぱい』のトム・リプリーの役どころだ。ところがストレザーはリプリーのような強かさは少しも持ち合わせない。
たった一つだけの願望―あるがままの人生を受け入れるという、平凡にして到達不可能な能力に尽きていた。彼自身が見るところ、彼は人生とは思うようにはならないものだということを自ら好んで理解するために最良の年月を浪費した男
なのだ。そんな彼が花の都パリで、チャドやその原因とされる女性と出会ううちに、次第に心情が変化してゆく。

 主人公の心理とその「視点」から見たその他の登場人物の心理に対する徹底的な描写は、それまでの文学作品には例のないものである。というわけで、本作はストレザーの心理状態の変化を中心に描く。主人公がいろいろと心が揺れ動いてくれないとあれこれ書けないが、その点ストレザーは大いにネタを提供してくれる。揺れ動きっぷりが、一言でいえば“ミイラ取りがミイラになる”類なので、むしろ55歳の結婚経験もある男性にしてはあまりに純過ぎないか?という疑問がわく。彼が最後まで信じ続ける“ある事”について、かつ洗練された女性と交わされる会話のまだるっこさについて、特にそう思う。おそらく意図的に彼が連れ戻すはずだったチャドとの対比のためにそのようなキャラクターに設定されているが、リアリティという点では紙一重であるようだ。

 こんな人のいいおっさんではあかんわ、と肝っ玉母さんが第二の使者を送り出すところで上巻は幕。さて、ストレザーの運命や、いかに?

2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。

ヘンリー・ジェームズ作品
ワシントン・スクエア
ねじの回転 -心霊小説傑作選-
大使たち〈下〉
黄金の盃
ある婦人の肖像
アスパンの恋文
ヘンリー・ジェイムズ作品集 (2) ポイントンの蒐集品 メイジーの知ったこと 檻の中
友だちの友だち (バベルの図書館)
ロデリック・ハドソン
聖なる泉
ロンドン生活 他
ヘンリー・ジェイムズ作品集 (7) 密林の獣 荒涼のベンチ
ボストンの人々
アメリカ人
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2327 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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