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民主社会主義者による『アメリカ民主党 失敗の本質』を読んで――苦悶する「アメリカン・デモクラシー」はいかにして死滅する、いや復活するのでしょうか?

ジョン・B・ジュディス&ルイ・ティシェイラの『アメリカ民主党 失敗の本質 「中間層・労働者」は、なぜ「トランプ支持」に突き動かされたのか』(東洋経済新報社)を読みました。

本書の日本語版解説を書いている会田弘継氏によると、この筆者のお二人は「右翼ではない。筋金入りの左派」であって、欧州の社会民主主義者に近い「民主社会主義者」ないし、それへの共感を隠さない知識人だそうです。

そんなお二人が、ニクソン・カーター・レーガン時代から続く共和党と民主党との対立構図が、2016年のヒラリー・クリントンの敗北、2020年のバイデンの辛勝、そして2024年の大統領選挙へとどういう形で攻守が転換していったかを分析しています。

『共和党 失敗の本質』のような本はたくさん出ており、共和党の問題点にはあえて触れずに「民主党こそが自らを省みて、彼ら自身の失敗が政治的右派の最も有害な傾向の台頭にどの程度寄与したのかを真剣に検討する必要がある」との認識の下、本書を書いたとのことです。なるほどと思いました。知的刺激を受けて、大変面白い本でした。
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日本でも反トランプ的な論調の朝日新聞に所属しているアメリカ特派員が、トランプは侮れないという視点でアメリカルポをした秀作があります。

金成隆一氏の『ルポ トランプ王国 もう一つのアメリカを行く』『ルポ トランプ王国2 ラストベルト再訪』 (岩波新書)、『記者、ラストベルトに住む トランプ王国 冷めぬ熱狂』 (朝日新聞出版)はいずれも秀逸なアメリカ論でした。ジョン・B・ジュディス&ルイ・ティシェイラの分析に似たものがあります。

また、日本の右派系の渡辺惣樹氏の『アメリカ民主党の崩壊2001-2020』『アメリカ民主党の欺瞞2020-2024』(PHP)や、山口敬之氏の『中国に侵略されたアメリカ』(ワック)や、瀬能繁氏の『「社会主義化」するアメリカ  若者たちはどんな未来を描いているのか』(日本経済新聞出版)でも、アメリカン・リベラルのあまりにも急進的な状況がルポされています。

ジョン・B・ジュディス&ルイ・ティシェイラとは違って反共右派的なマーク・レヴィンの『アメリカを蝕む共産主義の正体』(徳間書店)も、私にとっては共感するところが大でした。
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そうしたいままでの読書体験をもとに、ジョン・B・ジュディス&ルイ・ティシェイラのこの本を読むと、私から見ると、スノッブになった民主党のお偉方が、長年の支持層(白人労働者)を軽視し、文化戦争というのかポリコレやLGBTや移民戦争や気候変動などの問題を高踏的・観念的に論じるばかりで、徐々に支持基盤を弱めていった過程を改めて実感することができました。

トランプは粗雑だけど、ヒラリーの傲慢よりはマシと思う「中間層・労働者」がそこそこいたのでしょう。旧来の民主党支持層だったヒスパニック系や黒人たちがトランプ・共和党へシフトする背景も指摘もされていました。そのために2016年の大統領選挙で「惜敗」したわけです。

「移民問題は、ポリティカル・コレクトネスが特に顕著に現れる分野となった。民主党寄りのリベラル系出版物は『不法移民』という用語を『書類未整備の移民』や『許可されていない移民』に置き換えるのが常となり、あたかも違法行為が行われていないかのような印象を与えようとした」
これって、日本でもすでにNHKが実践しています。マイブログでも何度か指摘しましたが、NHKニュースを聞いていると、アナウンサーが「不法移民」のことを「滞在資格のない移民」と言い換えて報じているのを何度も耳にしています。民放でもやっているところがあるでしょうが、心ある人は、この一事をもってしてでも、受信料の支払いを停止すべきかもしれませんね。
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日本でも、言葉の言い換え等々のような文化戦争はこのように起きているのです。

残念ながら中絶の是非をめぐる問題は、日本では政治問題化はしていません。「中絶天国」と「スパイ天国」は日本のイメージとして昔から定着していましたから。

「夫婦別姓」や「女系天皇の是非」などが日本独自の文化戦争の項目になるでしょうか。LGBTなども問題化されつつありますが、この点、アメリカでもあまりにも行き過ぎた「性自認」論などには、理性ある反論がなされているようです。気候変動論も気候崩壊論として、狂信的ともいえるような観念論がアメリカ社会ではびこっているようです。お二人の著者はその行き過ぎを指摘しています(共和党系のなんの心配もないといった立場にも懐疑的ではありますが)。
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それにしても、文化的急進主義の動きは、山口敬之氏の『中国に侵略されたアメリカ』(ワック)でも詳述されていましたが、『アメリカ民主党失敗の本質』を読んでも唖然とするばかりです。移民問題で科学的な分析を行なう組織(移民研究所)に対して、「ヘイトグループ」だと決め付けて攻撃するような団体も出てきているとのことです。日本でも、たいした根拠もなく「ヘイト本」「ヘイト雑誌」とレッテル貼りをして喜んでいる手合いがいるではありませんか。

歴史学者の多くから批判されている『1619プロジェクト』など人種的急進主義を推進している「ニューヨーク・タイムズ」への疑問なども提示されています。数々の「歴史の誤読」など、日本のかつての慰安婦捏造報道にも似た構図があるようにも感じました。先走った一知半解の歴史観が学界のみならず教育の現場にも浸透していく恐ろしさ。アメリカでもそういう事態が発生しつつあるようです。

ただ、私はアジアの一員として、西洋人が、アメリカを発見したとか、太平洋を発見したとか、邪教(キリスト教?)を布教したこと等々に関して、殺戮虐殺や野蛮な文化侵略があった歴史があったことを忘れてはいけないと思います。それへの学問的批判は遠慮せずにやるべきだと思います。

ただ、それはそれとしてやりつつも、21世紀になっても、人種差別等々の根源がそこにあり、差別・格差解消のためには、逆差別が必要だといわんばかりの考えには疑問を感じます。西洋人の一般的な価値観による過去の評価を一方的に全面的に排斥するのはおかしいと考えています。
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ジョン・B・ジュディス&ルイ・ティシェイラの『アメリカ民主党 失敗の本質』を読んで、40年前に読んだ本を思い出しました。フランスの思想家でジャーナリストでもあり、保守派というのか民主社会主義者というのか、要は「反共リベラル」な立場を貫いたジャン・フランソワ・ルヴェルという人がいます。

『グローバル・デモクラシー』(青土社)や『全体主義の誘惑』(新潮社)や『民主主義国の終焉 宿命の東西対立』 (芸艸堂)などが日本でも翻訳されています。とりわけ『全体主義の誘惑』は名著。
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『アメリカ民主党 失敗の本質』で、ウィリアム・ジュリアス・ウィルソンの『アメリカのアンダークラス 本当に不利な立場に置かれた人々』(明石書店)が紹介されています。
ウィルソンの分析はアファーマティブ・アクションを否定し「公民権革命から生じた人種特有の政策は、より恵まれた黒人(すなわち、高収入であり、より高い教育や訓練を受け、より名誉ある職業に就いている者)には利益をもたらしたが、本当に困窮している者にはほとんど効果がなかった」と指摘。そのため、「ウィルソンの提案は『保守的な』貧困対策であると批判されたが、彼はそれに対し『私は社会民主主義者だ』と応じている」とのこと。

ウィルソンの本は未読ですので、機会あれば一読したいもの。

それにしても、民主社会主義者(社会民主主義者)でもまともな方々(右派?)は、保守派に負けずに極左的な左派勢力とさまざまな分野で闘っているようですね。ルヴェルも「社会主義者」といえば「社会主義者」でしたから。
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以前、カロリーヌ・フレストの『「傷つきました」戦争 超過敏世代のデスロード』(中央公論新社)を読みました。

(こんな内容)→ジェンダー、人種、肌の色――正しさは“属性”で決まる?
フランス各紙誌で白熱議論!〈文化を検閲し社会を分断する風潮は、どこへ行き着くのか?〉
人の立場や出自で行動をジャッジし、「傷つきました」の一言で議論が終了……
歌手の髪型、ヨガの流行、日本風パーティにまで「傷つきました」と、過敏な抗議が止まらない。フェミニストで反差別運動の旗手が、アメリカの議論に欠けている普遍主義の視点から、世界的ポリコレの暴走に対話の活路をもたらすエッセイ
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著者はレズビアンで、かなり左派系の人です。その人から見ても、昨今の「アイデンティティ至上主義」的な主張を展開するブラック・ライヴズ・マターなどの活動家の動きにはついていけないようで、かなりの批判をくわえています。併読をおすすめします。

欧米(&日本)で発生している「行き過ぎた自称リベラル」による文化戦争等々は、かつてのつるし上げが得意だった「スターリン主義者」「毛沢東主義者」(&ナチ・ファシスト)による破壊的運動と「五十歩百歩」でしかないと思います。彼らが多数派になったら、民主主義は死滅します。そうはさせないことが肝要です。

では、ごきげんよう。
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みんな本や雑誌が大好き!? さん本が好き!1級(書評数:736 件)

現代史関連の本や雑誌が好きです。そうした本の紹介をしていきたいと思います。皆様の読書の参考、そんな本があるのかとの発見があれば幸いです。

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