ゆうちゃんさん
レビュアー:
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本書の大部分は創元推理文庫のソーンダイク博士ものの短編に被るが、「オスカー・ブロスキー事件」のみ未読。倒叙物は、斬新な形式で犯罪の解明過程を重視したのか、プロット構成は甘い。
創元社はソーンダイク博士の事件簿という文庫本を2巻まで出していた。本書はその2冊を購入してだいぶ経ってから古本屋で見つけたもの。本書には、ソーンダイク博士ものの5つの倒叙推理小説が載っているのだが、買ってみると、そのうち4編はこの創元の1,2巻でカバーされていた(T_T)。
そのうちの未掲載のものが「オスカー・ブロズキー事件」である。負け惜しみではないが、これは創元の1巻の巻末で言及されていた倒叙物なので、本書で読むことが出来た。
一見温厚な紳士であるが実は夜盗の稼ぎで暮らしていたサイラス・ヒックラーは、アムステルダムに出発する準備をしていた。そこに道を聞く紳士が訪れた。ヒックラーもこれから行くバザム連絡駅への道を訊いている。ヒックラーは、バザム駅はここから十分近いから待つことを勧めた。一杯勧めて顔をよく見ると相手は業界ではよく知られた宝石商オスカー・ブロズキーと気づいた。ヒックラーは「職業柄」彼が持っているであろう宝石類を奪おうかどうしようかと悩み始める。結局、隙を見て鉄棒で殴りかかったが、気づかれて反抗された。格闘になったが、最終的には布で窒息死させた。ヒックラーの家は線路に近く、小柄なブロスキーの死体と彼のカバンや傘を担いで線路際に置き、貨物列車が轢くのを待った。その後、不足していた殺人隠蔽処理をして駅に向かった。ヒックラーが駅に着く頃には、事故が乗客たちに知られていて駅は異様な雰囲気だった。丁度、ホームには、布で覆われ担架に乗せられた死体が運ばれてきたところだった。赤帽が後からブロスキーのコウモリ傘とカバンも運んでいる。そのコウモリ傘を見て、「ブロスキーのものだ」と叫ぶ者がいた。旅の途中でソーンダイク博士とジャーヴィス医師と落ち合ったボスコヴィッチだった。彼は駅長に頼まれて死体を確認しブロスキーだと認めた。機関車に首を切断された凄惨な死体である。ボスコヴィッチに頼まれたソーンダイク博士は、すぐに捜査に着手すべきだと主張し、やってきた警部と死体の確認、轢死の現場の確認に出向く。最初は事故か自殺と決めつけ、拡大鏡や顕微鏡であれこれ確認するソーンダイク博士を馬鹿にしていた田舎警部も、捜査が進むにつれ、次第に博士への尊敬の度合いを増していった。
この事件も、他の倒叙物と同じく犯罪の過程を描く三人称小説の第1章とジャーヴィス医師の手記である第2章というハイブリッドな構成となっている。ソーンダイク博士の短編で読んだ倒叙物は、合計6編になるが、うち本書も含め4編が行きずりの殺人で、計画的なものではない。計画的な犯罪も犯人の知的レベルはそれほど高いとは言えず、決定的なミスを幾つも犯している。「オスカー・ブロズキー事件」も、いかにも荒っぽい手法で、そんなことをしたら、すぐにばれるというツッコミどころ満載の犯罪処理となってしまった。ただ、この短編の末尾でソーンダイク博士が主張する通り犯罪は捜査の初動、つまり着手の速さが大事で、田舎警部がこのまま事件を処理していたら犯罪は露見しなかったのだろう。
夜盗の家にたまたま宝石商が道を訊きに来ると言う当初の設定と、事件が起きた時にソーンダイク博士の一行が通りかかると言う捜査の着手が稀な偶然となっており、小説のプロット的には問題がある。倒叙物自身が執筆当時は斬新であり、当時としては、これはこれで良かったのかもしれない。倒叙物で描かれる犯罪は、後に刑事コロンボに登場するような完全犯罪に近いものに進化してゆくのだろう。著者のフリーマンは、誰の犯行かより、どのように犯罪を解明するかに重きを置いていると言うが、現代の倒叙物を知っている目からみると残念ながら粗が見えてしまう。
なお、本書の残りの短編は全て大久保康雄氏の訳となっており、恐らく創元社の短編と全く同一、オスカー・ブロズキー事件も創元社から出ているアンソロジーに載っているということなので、本書はどうやら創元社のフリーマンの短編から倒叙物だけを転載したようだ。あまり聞かない出版社だが、版権などどうなっているのだろうと思う。末尾には中央公論社の「世界推理名作全集」より収録とあったので創元社自身も中央公論社と版権の交渉をしているのかもしれない。また表題作である筈の「歌う白骨」は、本書ではわざわざ「反抗のこだま」と別の題名に改題されている。「歌う白骨」が入っているはずの短編集でありながら、目次を見てもそれが一見してわからないという珍しい構成である(中身を読めばどの短編が「歌う白骨」なのかはわかる)。
そのうちの未掲載のものが「オスカー・ブロズキー事件」である。負け惜しみではないが、これは創元の1巻の巻末で言及されていた倒叙物なので、本書で読むことが出来た。
一見温厚な紳士であるが実は夜盗の稼ぎで暮らしていたサイラス・ヒックラーは、アムステルダムに出発する準備をしていた。そこに道を聞く紳士が訪れた。ヒックラーもこれから行くバザム連絡駅への道を訊いている。ヒックラーは、バザム駅はここから十分近いから待つことを勧めた。一杯勧めて顔をよく見ると相手は業界ではよく知られた宝石商オスカー・ブロズキーと気づいた。ヒックラーは「職業柄」彼が持っているであろう宝石類を奪おうかどうしようかと悩み始める。結局、隙を見て鉄棒で殴りかかったが、気づかれて反抗された。格闘になったが、最終的には布で窒息死させた。ヒックラーの家は線路に近く、小柄なブロスキーの死体と彼のカバンや傘を担いで線路際に置き、貨物列車が轢くのを待った。その後、不足していた殺人隠蔽処理をして駅に向かった。ヒックラーが駅に着く頃には、事故が乗客たちに知られていて駅は異様な雰囲気だった。丁度、ホームには、布で覆われ担架に乗せられた死体が運ばれてきたところだった。赤帽が後からブロスキーのコウモリ傘とカバンも運んでいる。そのコウモリ傘を見て、「ブロスキーのものだ」と叫ぶ者がいた。旅の途中でソーンダイク博士とジャーヴィス医師と落ち合ったボスコヴィッチだった。彼は駅長に頼まれて死体を確認しブロスキーだと認めた。機関車に首を切断された凄惨な死体である。ボスコヴィッチに頼まれたソーンダイク博士は、すぐに捜査に着手すべきだと主張し、やってきた警部と死体の確認、轢死の現場の確認に出向く。最初は事故か自殺と決めつけ、拡大鏡や顕微鏡であれこれ確認するソーンダイク博士を馬鹿にしていた田舎警部も、捜査が進むにつれ、次第に博士への尊敬の度合いを増していった。
この事件も、他の倒叙物と同じく犯罪の過程を描く三人称小説の第1章とジャーヴィス医師の手記である第2章というハイブリッドな構成となっている。ソーンダイク博士の短編で読んだ倒叙物は、合計6編になるが、うち本書も含め4編が行きずりの殺人で、計画的なものではない。計画的な犯罪も犯人の知的レベルはそれほど高いとは言えず、決定的なミスを幾つも犯している。「オスカー・ブロズキー事件」も、いかにも荒っぽい手法で、そんなことをしたら、すぐにばれるというツッコミどころ満載の犯罪処理となってしまった。ただ、この短編の末尾でソーンダイク博士が主張する通り犯罪は捜査の初動、つまり着手の速さが大事で、田舎警部がこのまま事件を処理していたら犯罪は露見しなかったのだろう。
夜盗の家にたまたま宝石商が道を訊きに来ると言う当初の設定と、事件が起きた時にソーンダイク博士の一行が通りかかると言う捜査の着手が稀な偶然となっており、小説のプロット的には問題がある。倒叙物自身が執筆当時は斬新であり、当時としては、これはこれで良かったのかもしれない。倒叙物で描かれる犯罪は、後に刑事コロンボに登場するような完全犯罪に近いものに進化してゆくのだろう。著者のフリーマンは、誰の犯行かより、どのように犯罪を解明するかに重きを置いていると言うが、現代の倒叙物を知っている目からみると残念ながら粗が見えてしまう。
なお、本書の残りの短編は全て大久保康雄氏の訳となっており、恐らく創元社の短編と全く同一、オスカー・ブロズキー事件も創元社から出ているアンソロジーに載っているということなので、本書はどうやら創元社のフリーマンの短編から倒叙物だけを転載したようだ。あまり聞かない出版社だが、版権などどうなっているのだろうと思う。末尾には中央公論社の「世界推理名作全集」より収録とあったので創元社自身も中央公論社と版権の交渉をしているのかもしれない。また表題作である筈の「歌う白骨」は、本書ではわざわざ「反抗のこだま」と別の題名に改題されている。「歌う白骨」が入っているはずの短編集でありながら、目次を見てもそれが一見してわからないという珍しい構成である(中身を読めばどの短編が「歌う白骨」なのかはわかる)。
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神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。
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- 出版社:嶋中書店
- ページ数:0
- ISBN:9784861563157
- 発売日:2004年12月01日
- 価格:8700円
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