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くにたちきち
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「ヒト」と「ウィルス」との関係を、人類史と疾病史の両面から取り上げ、そのいずれもが「生命の輪」の一員であることを明らかにしようとした奇想天外な本です。
著者が最初に出している疑問の一つは、「ヒト」とは一体何者なのか‽ という深刻な問いであり、もう一つは、「ウィルス」とは何者か‽ ということである、といいます。生物とはみなさない、という生物学者の多数意見に対して、著者は「ウィルスは生きている」と考え、その根拠を示しています。

まず、最初の問いである「ヒト」について、2000年に『ネイチャー』に掲載された論文に、胎盤の絨毛を取り囲むように存在している、特殊な膜構造の形成に非常に重要な役割を果たしているタンパク質が、ヒトのゲノムに潜むウィルスが持つ遺伝子に由来するということが明らかにされたと述べています。

このことから、胎児を母体の中で育てることで得られている進化上の鍵が、太古の昔にヒトに感染し今も体内にいる、ウィルスにより提供されていることから、ヒトはウィルスと一体化しており、動物とウィルスの合いの子、キメラということなのだろうといいます。

「スペイン風邪」は1918年から19年にかけて世界的に流行したインフルエンザの一種ですが、6億人が感染し、2千万人から5千万人が死亡したとされていますが、ちょうど同じ時期に第一次世界大戦がなされ、その間に犠牲となった死者の数は、1千5百万人であったとされているそうです。この「スペイン風邪」による死者数を上回る死者を出した災禍を人類は経験していないと述べています(ちなみに、今回の新型コロナウィルス感染症による死者数は、8月9日現在で約73万人と報じられています)。

この本には、このような甚大な被害を起こした、ウィルスが発見されるまでの歴史と、それに関わった科学者たちの素顔を生き生きと描いています。「濾過性病原体」という古典的な名称で示されている、ウィルスの正体が解明されるには、1890年代にそれが発表されてから、30~50年の歳月がかかっているのだそうです。

ウィルスは、生物なのか無生物なのかという問題は、まだ未解決のようですが、著者は、ウィルスの本体は核酸であり、それが生きた宿主の細胞に入るとあたかも生命体のように増殖し進化する存在となるといいます。

ウィルスには、いくつかの境界領域とされているものがあり、それは「転移因子」であり、「プラスミド」であるとされ、いずれもウィルスとは少し違った性質を持っていると説明しています。このようないくつかのグループがあり、それらは、動植物に対する病原性の有無によって、扱いが異なっているようです。

著者の専門は、植物病理学という分野であり、植物の病原体としてのウィルスを研究してきたようですが、そこから、人間の「生」を、「生命という大河の流れに浮かぶ小舟の上でみる夢」であると考えるに至る思索の流れを辿ることは、少し難しいことですが、これも読書の楽しみであるといえます。

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くにたちきち
くにたちきち さん本が好き!1級(書評数:778 件)

後期高齢者の立場から読んだ本を取り上げます。主な興味は、保健・医療・介護の分野ですが、他の分野も少しは読みます。でも、寄る年波には勝てず、スローペースです。画像は、誕生月の花「紫陽花」で、「七変化」ともいいます。ようやく、700冊を達成しました。

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