ぽんきちさん
レビュアー:
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今年は長谷川町子生誕100周年
「サザエさん」といえば、多くの人にとっては日曜夜のアニメが親しみ深いものではないだろうか。「♪おさかなくわえたドラネコ」の音楽とともに始まる、磯野家一家の日常ドラマ。
お父さんの磯野波平、お母さんフネ、長女フグ田サザエ、サザエの夫マスオ、長男カツオ、次女ワカメ、サザエとマスオの子タラオ、そして猫のタマ。
ご近所さんや友達、親戚とのほのぼのドラマである。
その原作が長谷川町子の新聞連載4コマ漫画だった。当初(1946年)は地方紙夕刊で始まった連載は、長谷川の引っ越しに伴い、東京の新聞の夕刊へと発表の場を移した。最終的には朝日新聞朝刊で20年以上に渡って連載が続けられた(1974年2月に休載したまま、再開せず)。
その本数はなんと、6500本以上とされている。
実は原作漫画とアニメではテイストがかなり違っていて、ワカメちゃんはアニメほど優等生ではなかったり、タマの他にも動物が飼われていたりといろいろ相違がある。
原作の方がややシニカルで社会風刺も含むという感じだろうか。
本書は、原作の方に着目した1冊。
1992年発刊、いわゆる「謎本」ブームの火付け役となった本でもある。
明るく幸せなイメージの「サザエさん」一家の裏に潜む謎をあぶりだす、という作りだ。
「波平とマスオにファッションセンスはあるか?」「サザエは外で仕事をしたことがあるのか?」「磯野家の人々はどんな本を読んでいた?」等、誰もが疑問に思っていそうな全69項目の問いとその解答を記す。
全体としてはやや穿ち過ぎで、無理に闇を拾っている感じがしなくもない。
当初は九州に住んでいた磯野一家が東京に移ってきたのは、戦後のヤミ絡みの仕事で九州にいづらくなったからだとしているが、これは単に作者の長谷川が転居したからだろう。
また、タラちゃんが当初は女の子だったのが、男の子になっているのは、誕生にまつわる秘密があるとか、サザエは年齢的にフネの実子ではないのではないかとかいう点は、長谷川がそれほどきっちりと設定を決定していなかったからではないかと思う。予想以上の長期連載となり、登場人物たちの年齢が固定されてしまったため、時代とのずれも出てしまったのだろう。
マスオの意外な趣味、漫画の中で変わりゆく東京の街並み、パロディー化されたサザエさんといった小ネタはなかなか興味深い。
だが、本書の中で最もおもしろかったのは、最後の問い69だ。
曰く「この本の中に『サザエさん』の絵が1点も使われていないのはなぜか」。
そう、本書には1点もサザエさんの絵がない。作品に言及する際には、脚注で「〇巻△頁」と当該部分を記している。
問いの答えは「姉妹社の許可が下りなかったから」。
単行本「サザエさん」の発行元の姉妹社は、著作権問題に大変厳しく対処していたのだ。
昭和46年、都内のバス会社が「サザエさんバス」と称して、車体にキャラクターを許可なく描いて走らせていた。長谷川らはこれを不当として告訴、結果的にバス会社は作者側に損害金を支払うことになった。
長谷川町子は本書が出る半年ほど前に逝去しているのだが、姉妹社は引き続き著作権には厳しく当たっていた。そのため、本書でも1点も絵はない。
当該4コマ作品を引用できれば一目瞭然という点も多いのだが、脚注にしたことでどこか学術書的な体裁になっている。それが本書の1つの味になっているのは、ある種、怪我の功名と言えようか。
なお、姉妹社は長谷川逝去の翌年に廃業、現在は朝日新聞出版が版元となっている。長谷川町子生誕100年の今年、オリジナル版の復刻発刊が始まった(→サザエさん全68巻紹介ページ)。この機に読み返してみるのも一興かもしれない。
*いろいろ言っていますが、本書を手に取ったのは、出先で読む本がなくなり、たまたまそこにあったためでしたw でもまぁこれも一期一会、なかなかおもしろかったです。
お父さんの磯野波平、お母さんフネ、長女フグ田サザエ、サザエの夫マスオ、長男カツオ、次女ワカメ、サザエとマスオの子タラオ、そして猫のタマ。
ご近所さんや友達、親戚とのほのぼのドラマである。
その原作が長谷川町子の新聞連載4コマ漫画だった。当初(1946年)は地方紙夕刊で始まった連載は、長谷川の引っ越しに伴い、東京の新聞の夕刊へと発表の場を移した。最終的には朝日新聞朝刊で20年以上に渡って連載が続けられた(1974年2月に休載したまま、再開せず)。
その本数はなんと、6500本以上とされている。
実は原作漫画とアニメではテイストがかなり違っていて、ワカメちゃんはアニメほど優等生ではなかったり、タマの他にも動物が飼われていたりといろいろ相違がある。
原作の方がややシニカルで社会風刺も含むという感じだろうか。
本書は、原作の方に着目した1冊。
1992年発刊、いわゆる「謎本」ブームの火付け役となった本でもある。
明るく幸せなイメージの「サザエさん」一家の裏に潜む謎をあぶりだす、という作りだ。
「波平とマスオにファッションセンスはあるか?」「サザエは外で仕事をしたことがあるのか?」「磯野家の人々はどんな本を読んでいた?」等、誰もが疑問に思っていそうな全69項目の問いとその解答を記す。
全体としてはやや穿ち過ぎで、無理に闇を拾っている感じがしなくもない。
当初は九州に住んでいた磯野一家が東京に移ってきたのは、戦後のヤミ絡みの仕事で九州にいづらくなったからだとしているが、これは単に作者の長谷川が転居したからだろう。
また、タラちゃんが当初は女の子だったのが、男の子になっているのは、誕生にまつわる秘密があるとか、サザエは年齢的にフネの実子ではないのではないかとかいう点は、長谷川がそれほどきっちりと設定を決定していなかったからではないかと思う。予想以上の長期連載となり、登場人物たちの年齢が固定されてしまったため、時代とのずれも出てしまったのだろう。
マスオの意外な趣味、漫画の中で変わりゆく東京の街並み、パロディー化されたサザエさんといった小ネタはなかなか興味深い。
だが、本書の中で最もおもしろかったのは、最後の問い69だ。
曰く「この本の中に『サザエさん』の絵が1点も使われていないのはなぜか」。
そう、本書には1点もサザエさんの絵がない。作品に言及する際には、脚注で「〇巻△頁」と当該部分を記している。
問いの答えは「姉妹社の許可が下りなかったから」。
単行本「サザエさん」の発行元の姉妹社は、著作権問題に大変厳しく対処していたのだ。
昭和46年、都内のバス会社が「サザエさんバス」と称して、車体にキャラクターを許可なく描いて走らせていた。長谷川らはこれを不当として告訴、結果的にバス会社は作者側に損害金を支払うことになった。
長谷川町子は本書が出る半年ほど前に逝去しているのだが、姉妹社は引き続き著作権には厳しく当たっていた。そのため、本書でも1点も絵はない。
当該4コマ作品を引用できれば一目瞭然という点も多いのだが、脚注にしたことでどこか学術書的な体裁になっている。それが本書の1つの味になっているのは、ある種、怪我の功名と言えようか。
なお、姉妹社は長谷川逝去の翌年に廃業、現在は朝日新聞出版が版元となっている。長谷川町子生誕100年の今年、オリジナル版の復刻発刊が始まった(→サザエさん全68巻紹介ページ)。この機に読み返してみるのも一興かもしれない。
*いろいろ言っていますが、本書を手に取ったのは、出先で読む本がなくなり、たまたまそこにあったためでしたw でもまぁこれも一期一会、なかなかおもしろかったです。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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- 出版社:飛鳥新社
- ページ数:223
- ISBN:9784870311268
- 発売日:1992年12月18日
- 価格:1049円
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