書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

ぷるーと
レビュアー:
二つの民族の間で、自分らしさを探し続ける主人公が遭遇した事件。
12月のコペンハーゲン。グリーンランド出身の少年イザイアが、7階か8階に相当する倉庫の屋根の上から助走をつけて飛び降りて死んだ。彼の死は自殺と考えられたが、同じグリーンランド出身だったからかイザイアに懐かれていたスミラは、その死に疑問を感じていた。イザイアは、極度の高所恐怖症で、2階以上に上がることすらできなかったのだ。確かに、雪が降り積もった倉庫の屋根にはイザイアの足跡しかなかった。だが、どうしても納得がいかないスミラは、一人で独自の捜査を始める。

デンマーク領であるグリーンランドに住んでいるのはイヌイット族で、デンマーク本土とは異なる独自の原語と文化を持っている。
スミラは、イヌイット族の母親と、デンマーク人の父親を持ち、幼い頃は母親に育てられたが、母親の死後父親に引き取られて、デンマークで高等教育を受けている。自分の中の二つの文化に引き裂かれそうになっているスミラは、粗暴な態度を取ることでなんとか自分を保とうとしている。

物語は、現実に起こった事件の謎解きの間に、スミラの回想や思考がはさまれて、描かれていく。謎解きでは、少年の死の謎が過去のデンマークによるグリーンランドの資源開発をめぐっての30年以上にもわたる組織的な策略が次第に明らかになっていき、舞台はコペンハーゲンからグリーンランドへ向かう船内と極北の海へと移っていく。 その船舶の構造や、海洋の自然や氷の現象の描写も、鮮明かつ詳細だ。

スミラ個人については、何度となく、彼女の雪に対する特別な感覚が描かれていて、それが題にもなっている。イヌイット族はそういった感覚に優れ、イザイアにも独特の感覚があったという。ただスミラの感覚は、イヌイット族の中でもかなり繊細だったらしく、彼女は、どんなに猛吹雪で真っ暗でも道に迷うことはなかった。

この知覚は、彼女がイヌイット族であることの証であり、彼女自身であることの証だ。自分自身を知るために、自分自身に納得するために、スミラは、自然科学や地質学や数学や物理学などの言葉を使って自分を分析しようとするのだが、そうやって難しいことをこねくり回さないことには自分を定義できないというのは、なんとも悲しいことだ。だが、グローバル化が進む現代においては、自分は何者でどこに属するのかと悩む若者は増えているのではないだろうか。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
ぷるーと
ぷるーと さん本が好き!1級(書評数:2925 件)

 ホラー以外は、何でも読みます。みなさんの書評を読むのも楽しみです。
 よろしくお願いします。
 

参考になる:27票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『スミラの雪の感覚』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ