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紅い芥子粒
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少年が旅立ったのは、1861年6月。ほんのひと月かふた月。秋には帰ってくるだろう。見送る母親も、少年自身も、そう思っていた。
アメリカの南北戦争。北部ミネソタ州から義勇兵として参戦した少年の物語である。
主人公の名は、チャーリー。
「実在した人物である」と、作者はあとがきに書いている。
そのとき、チャーリーは、15歳。
兵士となるには幼すぎ、年齢を偽っての志願だった。

奴隷解放のためにひと肌脱ごう、なんて思ったわけではない。
ミネソタで生まれ育ったチャーリーは、黒人奴隷の存在はおろか、黒人を見たことすらなかったのだから。
彼はただ、早くに父親を亡くし、苦労している母親に楽をさせてやりたかっただけなのだ。軍隊の月給11ドルが魅力だった。
戦争で活躍して、一人前の男として認められたいという思いもあった。
戦争がどんなものかなんて、まったく知らなかった。
テレビもラジオもない時代、大人たちのうわさ話だけが頼りだったから。
母親も、強くひきとめることはしなかった。
長く続く戦争ではない、一か月か二か月で終わるだろうと、役人もいっていたし新聞にもそう書いてあったから。

少年が旅立ったのは、1861年6月。
ほんのひと月かふた月。秋には帰ってくるだろう。
見送る母親も、チャーリー自身も、そう思っていた。


はじめのうちは、訓練ばかりだった。退屈で緊張感がなかった。
早く戦場へ行って敵をやっつけたいと、チャーリーも仲間のみんなも、うずうずしていた。戦争で自分が死ぬなんて、思わなかった。
やがて、南部へ出立。生まれて初めて乗る鉄道列車の旅。広いふかふかの座席、ぜいたくなごちそう。窓から見る景色は、めずらしいものばかり。一生の思い出になるような楽しい旅だった。

初めての戦闘は、ブルランの戦い。
体中に銃弾を浴び、皮も肉も裂けてばらばらになる味方の兵士。
砲弾がさく裂し、頭がふっとんだ敵の兵士。
チャーリーは、めちゃくちゃに射撃しながら、自分もそのうち死ぬんだと思うようになる。

すぐ終わると聞いていたのに、戦争は、だらだら続いた。
過密な兵営、栄養不足、不衛生、ストレス……、これだけ悪い条件がそろえば、疫病が蔓延する。
チャーリーも赤痢で寝込んだ。彼は死ななかったが疫病で命を落とした兵士は、戦闘で死んだ兵士の4倍もいたという。
兵糧が尽きると、南部の農家から食料を略奪した。悪いことだとは思わなかった。
戦争なんだから。

1861年に始まった戦争は、1865年まで続いた。
四年もの間、チャーリーは戦場を転々とした。
最後のゲティスバーグの戦いで、彼は、瀕死の重傷を負う。
生きて帰ったが、身体にも心にも重い後遺症が残った。
とりわけ心に負った深い傷は、まだ二十歳そこそこのチャーリーを、老人のように変えてしまった。
敵の将校を殺して奪いとったリボルバーをもてあそびながら、死ぬことばかり考えている……

少年少女向きに書かれた薄い本だが、読後感はズシリと重い。
あのとき、なぜ、背中にすがりついてでも息子を止めなかったかーー悔やんでも悔やみきれない母の涙を思ってしまう。
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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:561 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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