ゆうちゃんさん
レビュアー:
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新聞記者探偵ルールタビーユものの第一作である。黄色い部屋でマチルド嬢が悲鳴を挙げ銃声もした。壁や床に犯人のものと思しき手形や足跡が。だが悲鳴で駆け付けた一同が密室状態の黄色い部屋を探しても犯人はいない
密室トリックの古典で、今でも人気があるとされる作品。
語り手(ワトソン役)はサンクレールと言う弁護士で、探偵はルールタビーユと言う青年新聞記者である。ルールタビーユは、16歳の時に「オーベルキャン街の左足事件」でその死体の一部である左足を見つけ、エポック新聞に持ち込み特ダネを提供したことから、記者として採用され、探偵としても有名になった。
黄色い部屋とはフランスのグランディエと言う古城の持ち主スタンガースン教授の実験室がある離れのことである。スタンガースン教授にはひとり娘マチルド嬢がいて、非常に美人ながら30代で独身、父親の物理学の実験を手伝っている。スタンガースン教授は、キュリー夫人のラジウム発見に寄与する実験をし、またレントゲンを研究していると言う。
この離れは、玄関と実験室、それに真冬以外はマチルド嬢が泊まり込む黄色い部屋、そしてジャック爺さんと言う下男が泊る屋根裏からなる建屋だった。1892年10月25日の晩、それまでスタンガースン教授とジャック爺さんの三人で実験をしていたマチルド嬢は、遅い時刻になったのでふたりを残し、黄色い部屋で就寝した。この黄色い部屋には敷地外に面した窓ひとつと実験室に通じるドアしかない。マチルド嬢がドアに閂をかける音がして暫くすると悲鳴と銃声が聞こえた。スタンガースン教授とジャック爺さんでドアを開けようとしたが閂がかかり開かない。ジャック爺さんは外に回って窓を見たがそこも鎧戸が降りている。そこに銃声を聞いて門番のベルニエ夫妻も駆け付けた。窓は諦め、三人で離れに戻りスタンガースン教授も合わせてドアに体当たりして黄色い部屋になだれ込んだ。マチルド嬢は頭を殴られて血を流していた。壁には血で出来た手の跡。そして床には古臭いベレー帽や安っぽいハンカチ、足跡などがあったものの犯人がどこにもいない。犯人はどこに消えたのか・・。
このトリックと犯人像は賛否両論あるだろう。密室物の名作と言われるが、僕は、ヴァン・ダインの密室もの(カナリア殺人事件など)と比べるとちょっとレベルが落ちるかなと言う気がする。本書は密室の他にT型の廊下で犯人が消失すると言うトリックもあった。とても印象に残るトリックではあるが、現実性はイマイチである。
ルールタビーユはきちんとした探偵哲学を持っている。「知覚し得る痕跡は、僕の奴婢に過ぎない、決して僕を支配する主人であったことはない。それらは誤謬を引き起こすこともある」(235頁)。見たままの証拠を信用するなと言うことであり、この哲学は何度も登場する(319頁、335頁など)。多くの探偵に通用する理論であるが、もとはこの本あたりか・・。
「黒衣夫人の香り」もキーワードのように何度も登場する(84、222、226、379頁)が、黄色い部屋の謎とは無関係だそうだ。因みにルールタビーユもの第2作の題名が「黒衣夫人の香り」であり、本書の後日談なのだが、本書のネタバレになっているので、手にしない方が良い。登場人物表を見るのも問題である。
黄色い部屋の壁に付いたのは犯人が手を怪我したことによる。その手の怪我を上手い手段で隠すのだが、自分もこの6月、不覚にも転んで掌を怪我した(そこそこエグイ傷となった)。整形外科で絆創膏を貼ってもらったが、転んだことが恥ずかしく、本書のことを思い出して、家族には怪我を隠せるだけ隠してみようと思った。この怪我の完治におおよそ10日かかったが、家族はついに気づかず・・・。意外と隠せるものだと、この点については自分の体験を通じて納得した。
少し辛口の評価になってしまったが、密室物の古典として楽しめる作品であり、ミステリ・ファンなら一度は手にすべき本だと思う。
語り手(ワトソン役)はサンクレールと言う弁護士で、探偵はルールタビーユと言う青年新聞記者である。ルールタビーユは、16歳の時に「オーベルキャン街の左足事件」でその死体の一部である左足を見つけ、エポック新聞に持ち込み特ダネを提供したことから、記者として採用され、探偵としても有名になった。
黄色い部屋とはフランスのグランディエと言う古城の持ち主スタンガースン教授の実験室がある離れのことである。スタンガースン教授にはひとり娘マチルド嬢がいて、非常に美人ながら30代で独身、父親の物理学の実験を手伝っている。スタンガースン教授は、キュリー夫人のラジウム発見に寄与する実験をし、またレントゲンを研究していると言う。
この離れは、玄関と実験室、それに真冬以外はマチルド嬢が泊まり込む黄色い部屋、そしてジャック爺さんと言う下男が泊る屋根裏からなる建屋だった。1892年10月25日の晩、それまでスタンガースン教授とジャック爺さんの三人で実験をしていたマチルド嬢は、遅い時刻になったのでふたりを残し、黄色い部屋で就寝した。この黄色い部屋には敷地外に面した窓ひとつと実験室に通じるドアしかない。マチルド嬢がドアに閂をかける音がして暫くすると悲鳴と銃声が聞こえた。スタンガースン教授とジャック爺さんでドアを開けようとしたが閂がかかり開かない。ジャック爺さんは外に回って窓を見たがそこも鎧戸が降りている。そこに銃声を聞いて門番のベルニエ夫妻も駆け付けた。窓は諦め、三人で離れに戻りスタンガースン教授も合わせてドアに体当たりして黄色い部屋になだれ込んだ。マチルド嬢は頭を殴られて血を流していた。壁には血で出来た手の跡。そして床には古臭いベレー帽や安っぽいハンカチ、足跡などがあったものの犯人がどこにもいない。犯人はどこに消えたのか・・。
このトリックと犯人像は賛否両論あるだろう。密室物の名作と言われるが、僕は、ヴァン・ダインの密室もの(カナリア殺人事件など)と比べるとちょっとレベルが落ちるかなと言う気がする。本書は密室の他にT型の廊下で犯人が消失すると言うトリックもあった。とても印象に残るトリックではあるが、現実性はイマイチである。
ルールタビーユはきちんとした探偵哲学を持っている。「知覚し得る痕跡は、僕の奴婢に過ぎない、決して僕を支配する主人であったことはない。それらは誤謬を引き起こすこともある」(235頁)。見たままの証拠を信用するなと言うことであり、この哲学は何度も登場する(319頁、335頁など)。多くの探偵に通用する理論であるが、もとはこの本あたりか・・。
「黒衣夫人の香り」もキーワードのように何度も登場する(84、222、226、379頁)が、黄色い部屋の謎とは無関係だそうだ。因みにルールタビーユもの第2作の題名が「黒衣夫人の香り」であり、本書の後日談なのだが、本書のネタバレになっているので、手にしない方が良い。登場人物表を見るのも問題である。
黄色い部屋の壁に付いたのは犯人が手を怪我したことによる。その手の怪我を上手い手段で隠すのだが、自分もこの6月、不覚にも転んで掌を怪我した(そこそこエグイ傷となった)。整形外科で絆創膏を貼ってもらったが、転んだことが恥ずかしく、本書のことを思い出して、家族には怪我を隠せるだけ隠してみようと思った。この怪我の完治におおよそ10日かかったが、家族はついに気づかず・・・。意外と隠せるものだと、この点については自分の体験を通じて納得した。
少し辛口の評価になってしまったが、密室物の古典として楽しめる作品であり、ミステリ・ファンなら一度は手にすべき本だと思う。
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神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。
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- 出版社:東京創元社
- ページ数:422
- ISBN:9784488108038
- 発売日:2008年01月01日
- 価格:924円
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