レビュアー:
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いのちの形、始まりと終焉、とでも言おうか。遠大な昇華のような気がする。
梨木香歩は「家守奇譚」に感銘を受けて以来、何作か読んでいる。今作は最高傑作、との評もあり期待して読んだ。いろんな意味で予想外の物語だった。
この前に読んだのが最近の作品「海うそ」だった。「沼地」は2005年出版。島や自然環境という舞台設定が似ていることもあり入りやすかったが、しかしこちらは遠大なナラティブだ。
カタブツで独身の久美は企業の研究所勤務。叔母が亡くなり、住まいのマンションと、曾祖父母から代々受け継ぐ「ぬか床」をもらい受ける。不思議なぬか床は呻いたりするのだという。
久美はぬか床を気に入り、毎日かき混ぜ、野菜を漬け込んで会社に持っていたりしていた。ある日ぬか床に卵が現れ、さらにほどなく1人の男の子が出現する。
かつて恋心を抱いた幼なじみのフリオが男の子を見て、小学生の頃事故で死んだ親友だと言い出し、2人は仲良くなってやがてフリオが男の子を引き取る。続いてのっぺらぼうで嫌みをこぼす女、カッサンドラが出てくる。
ぬか床のことを調べていくなかで、久美は叔母から相談を受けたという微生物研究所の風野と知り合う。「男を捨てている」風野は島に行くべきだ、と久美を説得するー。
コミカルな設定にも見えるが、幽霊譚のようなエピソードでは引きずっていたフリオへの想いや、曖昧な母の記憶、それぞれ久美の心中に変化が訪れる。ずっと固まっていたものが動いた感覚。
この物語の特徴の一つは、おおざっぱに言って理系なこと。微生物の専門家風野と、やはり研究者の久美は、ぬか床を挟んで、島で、次々と微生物、菌類などを媒介とした生命論議を所々で繰り広げる。まあマニアック。
社会的議論を挿入する昔のフランス映画とか、日本史上初めて詩に理系的視点をもちこんだ宮沢賢治が悦びそうとか想像してしまった。
舞台はいよいよ島へと移り、なにやら島へ向かう数少ない船の乗船者もややめに怪しい雰囲気。渡ってすぐに緊張感が走る。数少ない手がかりを辿る久美と風野。テントと寝袋で野宿、久美のルーツの島、その原始的な自然の中で過ごす短い時間。やがて島を出た久美の曽祖父母に絡む文書が・・。
超自然的、幻想的な終焉に向かう、大きな意志。不思議な力を宿した島の森で、人間的な営みが幻想的に描かれる。
何がなにを象徴して、この要素はこれとリンクして、とは分析出来るのかも知れない。でも一読して、結局細かいところがアニメーション映画のように明らかになるわけではなく、大半のことが分からないまま終わってしまう。
おまけに、島のはるか昔だろう。システム化された社会の少年の物語が合間に3つ、挿入される。おお、村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」みたいに最後に繋がるのかな?・・うーんつながるようで分からない・・。昔の話なのに妙に近未来っぽいし。
剥き出しの自然は、ただ美しいばかりではない。神秘性を漂わせながらも、時間的にも空間的にも非常に大きなスパンで蠢いている感じがある。繁栄しても、やがて朽ちていく。時には人工的な理由で。
うまく言えないし、正直言って梨木香歩の著作でなければこんな考えを抱いたかどうかも分からないが、自然の何か遠大な変化が人間界に触れたナラティブなんじゃないかという気がしている。悠久。故星野道夫氏が撮ったアラスカの無人島の写真を思い出す。森の中でただ朽ちていくトーテムポール。
植物や渡り鳥を愛する梨木香歩が、自らの心の声を物語化しているような雰囲気が醸し出されていると思う。
こちらも不思議な気持ちにさせられる、なんか脳を揺さぶられるヘンな作品でした。はい。
この前に読んだのが最近の作品「海うそ」だった。「沼地」は2005年出版。島や自然環境という舞台設定が似ていることもあり入りやすかったが、しかしこちらは遠大なナラティブだ。
カタブツで独身の久美は企業の研究所勤務。叔母が亡くなり、住まいのマンションと、曾祖父母から代々受け継ぐ「ぬか床」をもらい受ける。不思議なぬか床は呻いたりするのだという。
久美はぬか床を気に入り、毎日かき混ぜ、野菜を漬け込んで会社に持っていたりしていた。ある日ぬか床に卵が現れ、さらにほどなく1人の男の子が出現する。
かつて恋心を抱いた幼なじみのフリオが男の子を見て、小学生の頃事故で死んだ親友だと言い出し、2人は仲良くなってやがてフリオが男の子を引き取る。続いてのっぺらぼうで嫌みをこぼす女、カッサンドラが出てくる。
ぬか床のことを調べていくなかで、久美は叔母から相談を受けたという微生物研究所の風野と知り合う。「男を捨てている」風野は島に行くべきだ、と久美を説得するー。
コミカルな設定にも見えるが、幽霊譚のようなエピソードでは引きずっていたフリオへの想いや、曖昧な母の記憶、それぞれ久美の心中に変化が訪れる。ずっと固まっていたものが動いた感覚。
この物語の特徴の一つは、おおざっぱに言って理系なこと。微生物の専門家風野と、やはり研究者の久美は、ぬか床を挟んで、島で、次々と微生物、菌類などを媒介とした生命論議を所々で繰り広げる。まあマニアック。
社会的議論を挿入する昔のフランス映画とか、日本史上初めて詩に理系的視点をもちこんだ宮沢賢治が悦びそうとか想像してしまった。
舞台はいよいよ島へと移り、なにやら島へ向かう数少ない船の乗船者もややめに怪しい雰囲気。渡ってすぐに緊張感が走る。数少ない手がかりを辿る久美と風野。テントと寝袋で野宿、久美のルーツの島、その原始的な自然の中で過ごす短い時間。やがて島を出た久美の曽祖父母に絡む文書が・・。
超自然的、幻想的な終焉に向かう、大きな意志。不思議な力を宿した島の森で、人間的な営みが幻想的に描かれる。
何がなにを象徴して、この要素はこれとリンクして、とは分析出来るのかも知れない。でも一読して、結局細かいところがアニメーション映画のように明らかになるわけではなく、大半のことが分からないまま終わってしまう。
おまけに、島のはるか昔だろう。システム化された社会の少年の物語が合間に3つ、挿入される。おお、村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」みたいに最後に繋がるのかな?・・うーんつながるようで分からない・・。昔の話なのに妙に近未来っぽいし。
剥き出しの自然は、ただ美しいばかりではない。神秘性を漂わせながらも、時間的にも空間的にも非常に大きなスパンで蠢いている感じがある。繁栄しても、やがて朽ちていく。時には人工的な理由で。
うまく言えないし、正直言って梨木香歩の著作でなければこんな考えを抱いたかどうかも分からないが、自然の何か遠大な変化が人間界に触れたナラティブなんじゃないかという気がしている。悠久。故星野道夫氏が撮ったアラスカの無人島の写真を思い出す。森の中でただ朽ちていくトーテムポール。
植物や渡り鳥を愛する梨木香歩が、自らの心の声を物語化しているような雰囲気が醸し出されていると思う。
こちらも不思議な気持ちにさせられる、なんか脳を揺さぶられるヘンな作品でした。はい。
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読む本の傾向は、女子系だと言われたことがあります。シャーロッキアン、アヤツジスト、北村カオリスタ。シェイクスピア、川端康成、宮沢賢治に最近ちょっと泉鏡花。アート、クラシック、ミステリ、宇宙もの、神代・飛鳥奈良万葉・平安ときて源氏物語、スポーツもの、ちょいホラーを読みます。海外の名作をもう少し読むこと。いまの密かな目標です。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:523
- ISBN:9784101253398
- 発売日:2008年11月27日
- 価格:700円
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