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紅い芥子粒
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53年の歳月を経て結ばれた二人。マグダレーナ川を上り下る船旅に出る。疫病患者を乗せた印の黄色い旗を翻し。それは、老いて耄碌した男女の、陽気で狂気の、命の終わりまで続くハネムーン。
舞台は南米コロンビア。19世紀末から20世紀はじめにかけて、世紀をまたいで生きた男女の愛の物語である。

劇的な場面設定はなく、平板な記述で物語が展開されていく。
文章はウィットに富み、随所にキラリと光る警句が散りばめられている。

著名な医師、フベナル・ウルビーノ博士は、オウムを捕まえようとしてマンゴーの木から落ちて死んだ。81歳だった。その通夜の席で、フロレンティーヌ・アリーサは、未亡人となったフェルミーナ・ダーサにプロポーズしたのだった。
「わたしはこのときがくるのを待っていた。もう一度永遠の貞節と変わることのない愛を誓いたいと思っている」、と。

二人の出会いは、フェルミーナ・ダーサが13歳、フロレンティーヌ・アリーサが18歳の時だった。
電報配達人だったフロレンティーヌ・アリーサが、フェルミーナ・ダーサの父親に一通の電報を届けたことがきっかけだった。以来、彼は彼女のことを調べ上げ、ストーカーのようにつきまとい、ラブレター攻撃をしかける。
一度は、彼と結婚の約束をした彼女だが、本能のなせるわざか、一方的に婚約を破棄してしまう。

彼女は、フベナル・ウルビーノ博士と結婚し、上流階級の夫人となった。
フロレンテーヌ・アリーサは彼女のことが忘れられず、51年9か月と4日間、独身を貫いたのだった。頭が禿げ上がり、総入れ歯の老人になるまで。

小説で語られるのは、フロレンティーヌ・アリーサとフェルミーナ・ダーサの、それぞれの人生だ。

ひとりの女性を一途に思い続けたというと、純情で誠実な男性のようだが、フロレンティーヌ・アリーサは、純情や誠実からはかけ離れた男だ。
初恋の人を思い続けた51年と9か月と4日の間に、彼は、66人の女性と関係をもち、一度に数人の女性と夫婦のような間柄になった。しかも最後の恋人は、孫ほど年の離れた14歳の少女だったのだ。
フロレンテーヌ・アリーサは、卑怯で狡猾な罪深い女たらしだ。

よい夫に恵まれ上流階級の夫人となったフェルミーナ・ダーサは、幸せな結婚生活を送っていたようにみえるが、実はそうでもない。
彼女の父親は、怪しげな仕事で財を成し、美貌に生まれついた娘を玉の輿に乗せることに心血を注いだ。フェルミーナ・ダーサは、成り上がりものの娘なのだ。
身分違いの結婚。王子様と結婚したシンデレラのようなものだ。その後の人生は苦難に満ちていた。夫の浮気もあった。それでも耐えて忍んで身に沁みついた上流婦人としてのプライドはゆるぎない。

博士の死を知ったフロレンテーヌ・アリーサは、14歳の恋人をハナ紙のように捨てて、初恋の女性のもとにかけつけ、51年前と同じようにラブレター攻撃をしかける。
一方のヘルミーナ・ダーサ。夫に仕え夫を支えることが彼女の人生のすべてだった。子どもたちは、すでにりっぱに成人している。夫に死なれて、彼女はからっぽになっていた。
その空洞に、初恋の男性、フロレンテーヌ・アリーサが滑り込んだ。

二人は、マグダレーナ川を上り下る長い船旅に出る。
船に、疫病患者を乗せた印の、黄色い旗をひるがえし。
それは、老いて耄碌した男女の、命の終わりまで続く、陽気で狂気に満ちたハネムーン……

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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:559 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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