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紅い芥子粒
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地上の王国か、天上の王国か。富と権力か、魂の救済か。アユタヤに日本人の王国を築こうとした山田長政と、隠れキリシタンの魂の救済を目指したペトロ岐部。相容れないふたりの生と死を描く。
慶長十九年(1964)十月六日、一隻のポルトガル船が、長崎の港を離れた。
船は、国外追放になったキリシタンたちを乗せていた。
徳川幕府が切支丹禁教令を発令したのは、その年の正月のこと。
それでも信仰を棄てない人たちが、国を棄てる道を選んだのだった。
行く先はマカオの神学校だが、その後の人生は自分で切り開いていかなければならない。覚悟の船出だった。

その中に、キリシタンではない男が一人、紛れ込んでいた。
名を藤蔵といった。藤蔵は、貧しい百姓の倅だった。
立身出世を夢見る藤蔵は、身分制度の固まってしまった日本に見切りをつけ、出世の糸口を求めて海を渡ることに決めたのだった。

キリシタン以外は乗れないはずの船。密航を助けてくれたのは、ペトロ岐部というキリシタンの男だった。
ペトロ岐部は、藤蔵の話を聞き、富も権力もむなしいぞ、という。
自分は神父になって日本にもどり、隠れキリシタンの魂の救済のために尽くしたいと話す。
地上の王国か、魂の王国か。
相容れない大望を抱く二人の男の、それぞれの王国への旅が始まる。

マカオに着いた藤蔵は、雑役や商売をして金をためながら、現地の人々と積極的に交わり、異国の言葉を覚え、立身出世の道を探る。
そして、シャムの都、アユタヤにたどりつく。
そこには、日本人の傭兵部隊があり、王宮を警護していた。
戦がなくなった日本では稼げなくなり、海の外に戦場という職場を求めてきた侍が少なからずいたのだった。
藤蔵は、日本人の隊長に気に入られ、傭兵部隊に入れてもらう。

そこから先は、秀吉の出世譚を読んでいるようだった。
いつもニコニコしていて、野心などけっして顔に出さず、人好きのするところも秀吉そっくりだ。

王宮には、若い国王を補佐する切れ者の摂政がいて、その摂政にも気に入られた。
藤蔵はうまく立ち回って日本人隊長を追い落として、自分が隊長になった。
摂政の命令で一揆を制圧して、ついに所領も手に入れた。
名まえも、山田長政という武将のような名前に変えた。

そこでやめておけばいいものを、長政の野望はとどまるところを知らない。

秀吉のように出世してきた長政だが、明智光秀のように破滅してしまった。
藤蔵の夢見た王国は、ゆめまぼろしのごとく消えた。


一方のペトロ岐部はどうか。
マカオの神学校ではあきたらず、命がけの旅をして、イタリーまで行き、そこの神学校で学ぶ。
神父となったペトロ岐部。初心を貫き、迫害と弾圧覚悟で日本に帰った。
隠れ信者のために働いたが、やがて捕らえられ、壮絶な殉教……

長政の野望と挫折は、わかりやすい。
ペトロ岐部の魂の救済と殉教は…… う~ん、わたしにはわからない。

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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:559 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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