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映画批評家・三浦哲哉が「偏愛する料理本」を評論+実行した本です。

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!1級
  • 食べたくなる本
  • by
  • 出版社:みすず書房
食べたくなる本
本書は2016~2018年の月刊「みすず」で連載された連載記事「食べたくなる本」を、加筆修正+再構成した「料理の本」の本です。
料理理論本・レシピ集たちの根底に流れる料理人の信念を、深く読み取った著者の評論が綴られています。加えて、著者のチャレンジも楽しめるという大変濃い内容に仕上がってます。

映画批評家の著者が、料理本に魅了された理由は3つ。
1 食をめぐる知識を増やして、自宅でおいしいものが食べたい
2 他所で何をどう食べているのか、が気になる
1・2とも理解できるけど、扱う本=著者が読んできた本の種類と量に圧倒されました。
私の本の楽しみ方として、本の中で出てきた「料理店」や「料理本」のリストを作っているのですが、本書で登場した料理本は125冊ありました。(多分、著者はこの100倍は読んでいるに違いない・・・。)

取扱本の数だけでなく、その振り幅がこれまた広い。
強烈な料理理論を突き進む、丸元淑生の正統派和食
美味しいより新しいが注目の、食文化の流行を追うファッションフード
社会のしがらみから逃避するためのツール=ジャンクフード
古き良き、そして徹底した素材と手間を惜しまない辰巳芳子の手塩にかけた家庭料理
小林カツ代の提案する、合理的かつおいしく手早くできる簡単レシピ
素材のポテンシャルをストイックに追求する、細川亜衣の引き算の料理
衣食住全てを調和させるために、習熟を徹底する有元葉子のおいしい上に体に良い料理
・・・etc
どれが良いとか悪いとかではなく、それぞれの本で著者が訴えている思いを著者は鮮やかに読み解き、それを取り巻く人と時代の関りについても語っていきます。

特に面白かったのが、料理実践編。
「素材と調理と調理器具に対する徹底したこだわりが、狂気に近い丸元淑生」本では、
4人分のあさりスパゲッティのレシピ通りに、アサリ2㎏使用して知人にふるまう。
(相当旨いそうだが、経費と大量の貝殻を捨てる手間を考えるとゾッとする・・・)
家庭料理は「死ぬほどおいしい!」の感動を覚えるものでなければいけない、という丸元氏の思いがそこにあるそうです。

「有元葉子の揚もの」では、「上質のエキストラバージンオリーブオイル(以下EVOO)」で揚げるのが、伝授できるほぼ唯一のコツと掲げられている。その文章に添えられた写真は、著者がイタリアから直輸入販売している「マルフーガ社」の上質EVOO様。美味しい上に、抗酸化作用が強く、ポリフェノール値が高い=健康に良い・・・が、お値段もいい。2019年発行の本書で3ℓ¥18,000(2026年現在¥28,000)です。
これで本当に揚げものをできるだろうか。一部の富裕層をのぞけば、有元ファンは大変な度胸試しを迫られることになるのだ。いや、それなりに富裕であっても、これを無駄な浪費と思わないための納得が必要だろう。

と言いつつ、この連載(本書)のために「それだけの価値があるのか?」を確認すべく、著者はこの超絶高級EVOOを揚げもの用鍋にタプタプと注ぎ入れ、(金額的プレッシャーと精神的ハードルに苦悩しつつ)揚げ物をしてみるのである。
味はまぁ…好き好きとはいえ、たっぷりとオリーブオイルに慣れ親しむイタリアの感性を持つことで、日本の日常的な食材を違う角度から味わうことができる=新しい世界がそこに広がります。

さて、料理本に魅了された理由3つ目こそが本書のテーマだと思います。
他人の「おいしい」を知ることで、自分の「おいしい」基準なんて絶対的なものではなく、世の中に無数にあるそれらの一つにすぎないということに気付く=自分の解像度頼りで作ってきた狭い「基準」を相対化することで、こだわりから解放されるきっかけになるかもしれない。
これも料理の本を読む理由と言えるだろう。いろいろな「おいしい」を知って身軽になること、優しくなること。


出身地の福島県で起きた原発事故と食への影響について書かれた本たちを語る時、3つ目のテーマは重く強く響きます。
自分以外の意見を冷静に聞き、想いを知ること、
自分が絶対的正義ではないと気付くこと、
問題をごっちゃにせずに切り分けて、科学的知見と突き合わせ考えること。
福島に・・・というか日本に限らず、現代の食には色々な問題点があるのは、誰しもぼんやりと感じていることです。日常を支えてきた食がどう成り立ってきたのか、食の幸福を未来にどう構成できるか・・・問いをすべての読者に投げかけて本は終わります。

そんなわけで、本書で紹介される千差万別&百花繚乱の料理(本)の数々には、誰もがどこかで共感し、驚き、反感を覚え、畏怖することでしょう。
本書を読むことで、視野の広さと視点の多さだけでなく、視座の高さを獲得できると思いますので、読書好き全ての方に・・・やっぱり特に、料理本が好きな方に本書をお勧めいたします。
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  • 掲載日:2026/05/25
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この書評へのコメント

  1. 薄荷2026-05-25 18:58

    みすず書房さん80周年お祝い企画があるかも?と聞いてから、そう言えばみすず書房本って読んだことない・・・と気付き、本書を読んでみました。
    趣味のリスト作りと、そこから派生した色々な読みたいリスト作りをしていたら、あっという間に一ヶ月が経過してました(笑)

  2. かもめ通信2026-05-25 19:15

    たぶんそろそろだとおもうんですけれどね。
    中の人なにやらテストしていたようだし…w

  3. 薄荷2026-05-25 19:35

    >かもめ通信さん
    あ!あの「テスト」ってそれだったんですね(笑)
    私が得意なジャンルがほぼ無いようですが、参加出来たら嬉しいなぁ・・・と思ってます。

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