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SFに(時に非常に猟奇的な)ミステリに接近する傾向が見られる中、劉慈欽の(少なくともここに収録された)作品はそういう方向とは一線を画し、純粋なSF?で勝負しようとする意思が感じられる。

円: 劉慈欣短篇集
この『円』は『三体』を書いた劉慈欽によるSF短篇集で、先にハードカバーで出ていたのを文庫化したもの。文庫化に当たり、「訳者あとがき」に原著者・劉と訳者・大森望との対談と劉の経歴が追加されている。

「訳者あとがき」によれば、原書にあたる短篇集は存在しないものの、日本で独自に編んだ選集ではなく、作品選択は原著者側による。とのこと。収録作品は13篇で、うち「月の光」と「円」はそれぞれ、いずれもケン・リュウ編による中国SFアンソロジー『月の光』(文庫化の際『金色昔日』と改題)、『折りたたみ北京』に収録されていて、私はそちらでも読んでいる。他にも既に別のアンソロジーに収録された作品がある。

私あまりSFを読まないので「今のSFは一般的に…」などと語ることはできないが、(時に非常に猟奇的な)ミステリに接近する傾向が見られる中、劉の(少なくともここに収録された)作品はそういう方向とは一線を画し、純粋なSF?で勝負しようとする意思が感じられる。

個々の収録作の解説は大森が「訳者あとがき」で書いているので、ここではその中の何篇かについて、私自身の感想やコメントなど。
つい最近も中国で炭鉱事故で多数の死傷者が出たが、炭鉱開発による事故を扱った「地火(じか)」を読んでいて、私はなぜか福島第一原子力発電所事故当時、その対応に追われた所員の姿が頭に浮かんだ。
中国の貧しい村で、残り少ない命を教師という仕事に捧げた男の物語「郷村教師」は、「何だか藤子・F・不二雄のマンガにありそうな話だな」と思っていたら、「訳者あとがき」の作品解説に実際にそう書かれていて驚いた。
「カオスの蝶」は、タイトルからも分かるようにカオス理論を扱った作品であると同時に、執筆当時の世界の政治状況が物語に色濃く反映している。へ~、中国の作家がこんな作品を書いていいのかキョロ(゚Д゚≡゚Д゚)キョロ、と思ったが、中国政府や中国共産党を批判するような内容ではないので問題ないのだろう。個人的には、この作品と合わせて米澤穂信の『さよなら妖精』や、ジョナサン・ホルトの『カルニヴィア1 禁忌』なども読むことをオススメする。
「円円(ユエンユエン)のシャボン玉」は収録作の中で最もハートウォーミングで、普段、やたら殺伐とした話ばかり読んでいるせいか、こういう作品は心に沁みた。
「記憶の遺伝」というテーマもそうだし、結末も夢野久作の『ドグラ・マグラ』の巻頭歌、胎児よ 胎児よ 何故躍る 母親の心がわかって おそろしいのかを地で行くのが、「人生」(ただ物語のテイストは、怖くも、おどろおどろしくもない)。
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  • 掲載日:2026/05/25
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