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恩田陸が描く天才バレエダンサーHALの物語の後日譚。

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!1級
  • spring another season (単行本)
  • by
  • 出版社:筑摩書房
spring another season (単行本)
恩田陸作「Spring another season」を読みました。

【Ⅰ H.H.邸におけるチャリティー・ディナー・パーティー】HALとフランツは、フランツの家のレッスン室で、次に上演するバレエの振り付けの事で議論していました。議論はフランツの母ユーリエがフランツに口利きさせて初めてHALと寝た時の嫉妬話に及び。。。その夜は2人がが所属するバレエ団の寄付金集めのディナー・パーティーがユーリエの邸宅で催され、2人はバレエ団のプリンシパル・ヴァネッサと共にめかしこんで参加したのでした。。。

【Ⅱ 私の青空】ヴァネッサは初めてHALに会った頃、そよ風のように気軽に声を掛けて来る能天気な男だと思っていましたが、HALの目的がヴァネッサを始めとするバレリーナに彼が考えた振り付けをアドバイスする事だと気づいて驚きました。アメリカ人であるヴァネッサは、他の欧州出身のバレリーナからミュージカル女優だと揶揄されて落ち込んでいましたが、HALは将来のスターであるヴァネッサはそんな引き立て役の事を気にしなくても良いと言い。ヴァネッサは癒されたのでした。

以後HALの勧めを容れて、当てこすりを言われる都度、自分のどこが悪いのかと積極的に尋ねると、言った皆は意外な事に親切にヴァネッサの欠点を教えてくれ、真摯にそれを改善するヴァネッサを皆は受け入れたのでした。HALはいつでもあたしの青空、あたしはあんたの女王様だとヴァネッサは思っていたのでした。。。

【Ⅲ 反省と改善】HALは深く反省していました。つい舞台をプライベートに持ち込んでしまったのでした。そもそもは恋人でもあるフランツがHALに、現在公演中で人気が沸騰している蜘蛛女のキスのモリーナを二度と踊るなと言い出したのでした。観客がHALのモリーナに熱狂するあまり、HALに欲情するのがたまらないのだと言うのでした。

次の公演でキャストを一新すると宣言したHALに、HALの代演をする深津が、お前のようには踊らないし踊れない、あれはHALの役の私物化だと言い、いい気になりすぎたとHALは反省しました。深津は次の公演でモリーナを正しく踊り、フランツも感心しました。しかしHALはフランツに、自分を支配しただろうと言い、フランツは、大嫌いだった自分の父親と同じ事をしてしまったと言って反省したのでした。。。

【Ⅳ 夜明けの光】ハッサンは誰かが綺麗な色の肌だと言った事にかっとして振り向くと、無垢そのものの顔をしたHALがいました。HALはいきなりハッサンにダンスを踊って見せ、これをハッサンがやったらかっこいいと言い出し、思わずハッサンはHALの言う通りに踊ってしまいました。ハッサンが深津に愚痴を言うと、HALと同室の俺は毎日やらされていると愚痴り返しました。あんな目で見つめられたのはハッサンがスカウトされた時以来だったのでした。いつの間にかHALとハッサンが2人で公演する事になっていました。ハッサンはHALの振り付け通り踊り、公演は大成功しました。。。

【Ⅴ 眠りの森】フランツはしばしばHALの部屋に泊まりに来ました。HALの部屋だと安眠出来ると言うのでした。しかしHALは深夜フランツがうなされているのをしばしば聞きました。大金持ちの家の跡取りだったフランツは、バレエを続ける為に計り知れないプレッシャーと戦っていたのでしたが、決して愚痴や弱音を吐く事はありませんでした。美少年だったフランツはしばしばペドフィリアによってセクハラを受け、ある時には聖職者にすら狙われていました。その時だけは嫌っていた父親に訴え、父親はその聖職者をさんざんな目に会わせ、お前はちっとも悪くないとフランツに言いました。HALはお父さんは愛情表現が苦手だったなと感想を述べました。

HAL自身もしばしばペドフィリアに狙われ、その話を家族に訴えてもなかなか信じてもらえず、ペドフィリアが逮捕されてからもこれからは気を付けろと父親に言われただけだったのでした。HALは光り輝く息子と妻と暮らす父親の気持ちが良く分かったのでした。。。

【Ⅵ DANCE in Mattise】HALは深津に、お前だけが頼りだと言いました。HALが振り付ける5人のプリンシパルを集めたバレエ・ガラで、フランツとハッサンが激しく対立してしまい、HALはその仲裁を深津に頼んだのでした。その日も2人は大喧嘩し、HALは2人はひどい、自分の渾身のガラなのに、と嘆いて稽古場を出て行ってしまい、深津は2人に、お前らはもう辞めてしまえ、他の腕利きがいくらでも出たがっているのだと最後通告をし、ヴァネッサはハラハラしながらとりなしましたが、深津は電話を掛け始め、2人は折れました。次第に2人は互いの踊りを批評し改善点を忠告し始め、舞台は素晴らしいものになったのでした。。。

【梅の木、桜、林檎の木】強行軍で来日し、日本でバレエを振り付けていたHALは夢の中で今振り付け中のバレエ「桜の森の満開の下」を眺めていました。坂口安吾が書いた小説をバレエにしたその作品は、桜の花の下で展開される残忍な物語で。。。

【Ⅷ 砂金採り】有名バレエ団を主宰するエリックとリシャールは、新たに採用するダンサーについて、バレエ技術とバレエ団経営のどちらをを優先するかでしばしば意見が分かれました。しかしバレエ団経営に必須なのは新しいスターを育てる事で、その原石を発見するのはまさに砂金採りだと2人は思いました。2人は今回日本で深津を見出しましたが、更に長野のワークショップで注目株が居るという噂を聞きつけました。それはHALという少年で。。。

【Ⅸ 石の花】フランツは幼い頃から家名や血筋、誇りなどの権威に虚飾と偽善を感じていました。司祭のセクハラを受けながらフランツは、やはりこいつらも同じだと言う幻滅と侮蔑を感じていました。フランツはきっとあの美しいバレエもその裏には冷徹で残酷な人生の真実が隠されているに違いないと思いながら、その光と影を体現するには自分しかいないと逆にバレエに強く惹かれたのでした。HALに出会うまでは今の自分はとても幸せだと思っていたのでした。

HALの踊りを始めて見たフランツは美しいと思いました。いつもフランツは技術を褒められましたが、踊りに感情表現が出来ていないと言われていました。オーロラを踊るHALは自分に向けて踊っていると感じたフランツは思わず進み出、HALの手を取ってローズ・アダージョを踊ったのでした。後にフランツはHALに振り付けを頼み、ドリアン・グレイを踊ってもらうと言いながらフランツを痛ましさと憐れみのこもった目で見たHALに、心がざわざわしました。

恋人になったHALの事を話すとユーリエはHALを連れて来いとフランツに命じ、一目HALを見たユーリエは自分もHALが欲しい、橋渡ししてくれとフランツに頼んだのでした。不思議な事に3人はとてもしっくり馴染み、フランツは今まで知らなかった感情や意識していなかった人格を持っていた事に気づきました。

フランツは40歳になったらバレエを引退すると決めていました。ユーリエが亡くなる前に許婚のマヌエラと結婚もしました。2人の子供も生まれ、HALにそれを告げるとあっさり祝福され、ショックでした。しばらく2人は痴話喧嘩をしましたが、フランツは僕の心は永遠に君のものだと打ち明け、HALは嬉しいと素直に答えました。

最後にHALとフランツは2人で石の花というバレエを公演しました。それは、皆に疎まれて育ったみなしごのダニーロが、偏屈な石工の親方に雇われ、石工の才能を見出され、明るい将来が約束されましたが、美を追求するあまり、山の女王の庭にあると言う石の花を見に行ってしまいます。それを見たダニーロはその花の美しさに魅入られ、ついに村での暮らしを捨てて女王の元に舞い戻ってしまうという話でした。まるで自分の話だとフランツは思いました。2人はひたすら稽古を続け、残り時間は飛ぶように過ぎます、2人は、自分達の間柄は運命そのものだと思いました。

しかしHALは行き詰まり、フランツに一人で踊ってくれと頼みました。自分の振り付けは自分の私情が入り過ぎていてとても耐えられないと泣きながら打ち明けました。しかしフランツは微笑みながら、自分的にはHALの私情が入った方が嬉しいと言ってHALをハグしました。HALはリラックスして我に返りました。公演は大喝采の中で終了し、フランツは引退しました。。。

【Ⅹ プレパラシオン】ロシアでプリンシパルを勤めていた滝澤美潮は森尾バレエ教室のレッスンに参加しながら、最初にHALと踊った時に、彼に美潮は正しすぎると言われた時の事を思い出していました。それから美潮はHALの踊りを真似するようになって、妹の七瀬に踊りが変だと指摘されました。森尾先生に相談すると、まだまだ美潮の踊りは正しさが足らない、絶対的な正しさが手に入ったら無敵になると言われ、美潮はロシア留学を思い立ったのでした。レッスン終了後美潮は先生に、まだ自分の正しさは極め切れていないと打ち明け。。。

【Ⅺ 新芸術監督へのインタビュー】私は還暦を迎えて未だ意気軒高なHALにインタビューしに行きました。HALは長年所属していたバレエ団の新芸術監督に就任していました。私は、HALがフランツの為に作ったドリアン・グレイを他の誰かに踊らせないのは何故かと尋ね、HALは上演申請が来た事は一度も無い、誰もフランツを上回る自信が無いからだろうと答えました。しかし私はフランツの息子がパリで踊っているが、ドリアン・グレイを踊りたいと言っていると言い、HALは息子の資質によっては可能だろうと答えました。。。

【Ⅻ すべての山に登れ】HALの師匠、ジャン・ジャメは子供の頃、母親の弾くピアノに会わせて姉と一緒に毎日踊っていました。モロッコの独立運動が始まると駐在武官だった父親を残して一家はマルセイユに引っ越しました。そこでもジャンは踊り続け、有名ダンサーとなり、世界中を飛び回りました。パリのバレエ団で芸術監督を務めた時にHALがやって来ました。ある時HALは春の祭典を踊ると報告に来ました。

ジャンはフランツに振り付けたドリアン・グレイは見事だったと褒めるとHALは、あれをサウンド・オブ・ミュージックの曲で踊らせたのは大変良かったが、オーストリア人のフランツはあのミュージカルに複雑な思いを抱いていると言いました。しかしHALは、あのミュージカルのすべての山に登れは好きだと言いました。あれは前向きの歌ではあるが、アメリカ人好みの楽観的な歌ではないと言い、ジャンはHALの歌だと言いましたが、HALはバレエダンサーすべての歌だと言いました。HALが去った後ジャンは、道半ばで倒れた幾多の同胞の事を思い。。。

恩田先生の「Spring」のスピンオフ小説です。むしろ原作の注釈的な作品であり、原作を読む事が必ず必要です。恩田先生は天才を描くのが大好きなんだそうです。参考の為にインタビューしに行った有名バレエダンサーから、言語化は難しいと言われ、プロ作家である自分こそ言語化する力があるのだと奮い立ったそうでした。原作に更に厚みをつけ、豊かにする事に成功した小説であったと思いました。
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  • 掲載日:2026/05/12
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