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星新一の描く世界が令和の世界と重なり合ってゆく

  • おのぞみの結末
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  • 出版社:新潮社
おのぞみの結末
星新一が描く世界は、令和あるいはその先を見抜いているような印象を受けることがある。もちろん未来予知能力があったわけではないのだろうが。彼が生きていた昭和の世界の中に令和にも通じるなんらかの種があって、それを物語に膨らませて見せてくれたのだろう。

戦後、飛躍的に成長し、右肩上がりの日本の行き着く先はどこなのか?アメリカに追いつき追い越せと汗をかいて働いた先にあるもの。目標を達成した先に何があるのか?

【ひとつの目標】は、そんな高度経済成長期の日本に埋もれていた種を元にして描いた未来像だ。

研究に勤しむエフ博士のもとに、一人の紳士が訪れる。世界征服をめざすグループの一員だとなのる紳士は、博士にもその計画に参画するよう要請する。国家間格差が広がり、自由と秩序の調和が乱れている現実世界。このグループは世界中の第一級の頭脳たちが集結し、理不尽な現実を正そうとする正義のもとに結成されたのだ。エフ博士に新たな精神安定剤を開発してもらい、それを世界中に蔓延させて人々を平和な精神状態にコントロールしようというのが目的。そのために、国籍、人種を越えたありとあらゆるメンバーがそれぞれの役割を果たし実現させてゆく。正義の名のもとに人々がその知恵をあつめ人々を安寧に導くという計画に博士は賛同する。そして目的は達成された。戦争、貧困、不平等はなくなった。世界はグループがめざす理想郷となった。そして・・・退屈がやってきた。

『以前のほうが面白かったな。(中略)緊張は文明にとって、必要品なのかもしれない。ごたごたを発生させつづけるほうが、人間らしいような気がする』

アメリカに追いつき追い越せと努力に努力を重ねついに世界一となった日本。そしてJAPAN AS No.1とまで賞せられるまでに。しかし目標を達成した後はどうなったか?追い越すべき目標を見失い、どこへ向かえばよいか分らなくなった。VUCAの世界がやってきているにも関わらず過去の成功体験から抜け出せずますます混迷するばかり。市井の人々は、コンプライアンスの名のもとに自由な考えを発することを恐れ、自分で自分を縛り上げている。エネルギッシュな昭和を懐かしむ声もチラホラ聞こえるようになってきた。

本作の最後のフレーズが耳に残る。

『これだけのことができたのだから、もとへ戻せないわけがない。われわれの才能をもってすれば・・・』
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  • 掲載日:2026/04/19
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