ゆうちゃんさん
レビュアー:
▼
有名な「幸福な王子」を含む童話集。だがハッピーエンドや教訓話は少なく、子供向けとは思えない。童話に名を借りた大人に考えさせる作品集である。
ワイルドの最も有名な短編集である。「幸福な王子」の他全部で九編の童話的な短編を収める。
「幸福な王子」は、宝石や金箔で彩られた王子の像が、冬に備えての渡りに遅れたつばめに、自分の体の金や宝石を貧しい人に与えて欲しいと頼む話である。結局つばめは寒さで死に、王子像はボロボロになってしまう。
「ナイチンゲールとばらの花」は、学生に惚れたナイチンゲールの話。学生は、教授の我儘な娘と踊りたいがため、その娘の要求する赤いばらを探している。ナイチンゲールは、学生のために赤いばらを求めてあちこち探すのだが、やがて高い代償を払わねばばらが手に入らないことがわかる。「わがままな大男」は、自分の庭で遊ぶ子供たちがうるさいと追い出した大男の話。子供たちを追い出した大男の庭にはいつまでも春が来なかった。しかし、ある朝、紅雀の歌う声を聞き庭を見ると・・。「忠実な友達」は、花を栽培するハンスとその親友を自称する粉屋のヒューの話。ハンスに収入がない真冬には何の助けもしないヒューだが、春になると手押し車が無いと言うハンスに、壊れかけた自分のをやると言う。しかし、ヒューはその好意の代償にあらゆることを要求するのだった。「素晴らしいロケット」は気位だけは高いロケット(花火)の話。実際彼が打ち上げられたのは・・。
「若い王」は戴冠式に身に着ける服や王錫のために人民どれほど苦労しているかを知った王が、みずぼらしい格好で戴冠式に臨む、と言う話。そんな恰好の王に家臣も人民も非難轟轟。だが・・・。「王女の誕生日」は、王女の誕生日に招かれた侏儒の悲劇。王女は彼の踊りを見て笑い転げるし昼食の後に再演も要求した。てっきり王女に好かれたと思った侏儒だが、彼は宮殿で初めて鏡と言うものを見る。「漁師とその魂」は、人魚に恋した若い漁師の話。人魚は自分と付き合うには魂を棄てなければならないと言う。苦労して魂を棄てた漁師は人魚と暮らすが、魂は魂だけで旅をし、年に一回漁師を呼び出してその結果を知らせる。1年目は知恵の鏡、2年目は富の指輪を持ってくるのだが、若い漁師はその度に「知恵も富も愛には勝らない」と言う。3年目に魂は「川の傍の宿屋で踊る少女の足」の話をする。すると漁師の心が動いて・・。「星の子」は、貧しい樵に育てられた星の子の話。美しい容姿の星の子は傲慢になり、母親が見つかっても乞食だと知ると追い出そうとする。「別れのキスもしてくれない」と嘆く母に「お前にキスするくらいなら蝮か蟇蛙にキスをする」と言う。すると星の子の顔は蟇蛙に、体には蝮の鱗が生えてくる。彼は罪を償うために母の後を追いかけるのだが・・。
童話集なのだが全てが子供向けとは思えない。この中でハッピーエンドになるのは「わがままな大男」と「若い王」だけである。「星の子」もその部類に入るのかも知れないが、最後の段落でそれを打ち消している。「素晴らしいロケット」や「星の子」は、ハッピーエンドではないと言っても、傲慢や親不孝だとどうなるのか、教訓話と解釈することが出来る。
「幸福な王子」、「ナイチンゲールとばらの花」、「忠実な友達」は良心が踏みにじられる話であり、「王女の誕生日」は良心ではないが無垢と言うものがやはり蔑ろにされる話である。これらは、救いようのない結末で童話の体裁の小説と言う風に感じる。
「漁師とその魂」は、アンデルセンと並ぶ人魚ものの童話の代表作だそうだが、どちらかと言うと人魚は添え物に思える。魂が無くてどうして愛せるのかと思うが、この話では魂の他に心が存在することになっていて、若い漁師は魂を棄てても心は残っていることになっている。評者は、この話の背景にキリスト教が感じ取られ、魂は宗教、心は宗教とは無関係な心根の様に読める。原文を当たっていないのだが、魂はspirit心はheartなのかもしれない。司祭は「魂ほど高貴なものはない」と言い、人魚は亡者として司祭から忌み嫌われる。若い漁師は、商人からは魂など価値がないと司祭と逆のことを言われて戸惑う。漁師から離れた魂は、他宗教とも出会いその神を否定する。一方で漁師と共に残った心は亡者で有る筈の人魚を愛することが出来る。結末を見ると、偏狭な宗教を批判した話にも受け取れる。
本書は、ワイルドの書いたふたつの童話集「幸福な王子ほか」、「ざくろの家」を一冊にまとめたものである。最初の五編が「幸福な王子ほか」に、残りが「ざくろの家」に掲載されている。
「幸福な王子」は、宝石や金箔で彩られた王子の像が、冬に備えての渡りに遅れたつばめに、自分の体の金や宝石を貧しい人に与えて欲しいと頼む話である。結局つばめは寒さで死に、王子像はボロボロになってしまう。
「ナイチンゲールとばらの花」は、学生に惚れたナイチンゲールの話。学生は、教授の我儘な娘と踊りたいがため、その娘の要求する赤いばらを探している。ナイチンゲールは、学生のために赤いばらを求めてあちこち探すのだが、やがて高い代償を払わねばばらが手に入らないことがわかる。「わがままな大男」は、自分の庭で遊ぶ子供たちがうるさいと追い出した大男の話。子供たちを追い出した大男の庭にはいつまでも春が来なかった。しかし、ある朝、紅雀の歌う声を聞き庭を見ると・・。「忠実な友達」は、花を栽培するハンスとその親友を自称する粉屋のヒューの話。ハンスに収入がない真冬には何の助けもしないヒューだが、春になると手押し車が無いと言うハンスに、壊れかけた自分のをやると言う。しかし、ヒューはその好意の代償にあらゆることを要求するのだった。「素晴らしいロケット」は気位だけは高いロケット(花火)の話。実際彼が打ち上げられたのは・・。
「若い王」は戴冠式に身に着ける服や王錫のために人民どれほど苦労しているかを知った王が、みずぼらしい格好で戴冠式に臨む、と言う話。そんな恰好の王に家臣も人民も非難轟轟。だが・・・。「王女の誕生日」は、王女の誕生日に招かれた侏儒の悲劇。王女は彼の踊りを見て笑い転げるし昼食の後に再演も要求した。てっきり王女に好かれたと思った侏儒だが、彼は宮殿で初めて鏡と言うものを見る。「漁師とその魂」は、人魚に恋した若い漁師の話。人魚は自分と付き合うには魂を棄てなければならないと言う。苦労して魂を棄てた漁師は人魚と暮らすが、魂は魂だけで旅をし、年に一回漁師を呼び出してその結果を知らせる。1年目は知恵の鏡、2年目は富の指輪を持ってくるのだが、若い漁師はその度に「知恵も富も愛には勝らない」と言う。3年目に魂は「川の傍の宿屋で踊る少女の足」の話をする。すると漁師の心が動いて・・。「星の子」は、貧しい樵に育てられた星の子の話。美しい容姿の星の子は傲慢になり、母親が見つかっても乞食だと知ると追い出そうとする。「別れのキスもしてくれない」と嘆く母に「お前にキスするくらいなら蝮か蟇蛙にキスをする」と言う。すると星の子の顔は蟇蛙に、体には蝮の鱗が生えてくる。彼は罪を償うために母の後を追いかけるのだが・・。
童話集なのだが全てが子供向けとは思えない。この中でハッピーエンドになるのは「わがままな大男」と「若い王」だけである。「星の子」もその部類に入るのかも知れないが、最後の段落でそれを打ち消している。「素晴らしいロケット」や「星の子」は、ハッピーエンドではないと言っても、傲慢や親不孝だとどうなるのか、教訓話と解釈することが出来る。
「幸福な王子」、「ナイチンゲールとばらの花」、「忠実な友達」は良心が踏みにじられる話であり、「王女の誕生日」は良心ではないが無垢と言うものがやはり蔑ろにされる話である。これらは、救いようのない結末で童話の体裁の小説と言う風に感じる。
「漁師とその魂」は、アンデルセンと並ぶ人魚ものの童話の代表作だそうだが、どちらかと言うと人魚は添え物に思える。魂が無くてどうして愛せるのかと思うが、この話では魂の他に心が存在することになっていて、若い漁師は魂を棄てても心は残っていることになっている。評者は、この話の背景にキリスト教が感じ取られ、魂は宗教、心は宗教とは無関係な心根の様に読める。原文を当たっていないのだが、魂はspirit心はheartなのかもしれない。司祭は「魂ほど高貴なものはない」と言い、人魚は亡者として司祭から忌み嫌われる。若い漁師は、商人からは魂など価値がないと司祭と逆のことを言われて戸惑う。漁師から離れた魂は、他宗教とも出会いその神を否定する。一方で漁師と共に残った心は亡者で有る筈の人魚を愛することが出来る。結末を見ると、偏狭な宗教を批判した話にも受け取れる。
本書は、ワイルドの書いたふたつの童話集「幸福な王子ほか」、「ざくろの家」を一冊にまとめたものである。最初の五編が「幸福な王子ほか」に、残りが「ざくろの家」に掲載されている。
お気に入り度:







掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。
この書評へのコメント

コメントするには、ログインしてください。
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:新潮社
- ページ数:275
- ISBN:9784102081044
- 発売日:1972年01月02日
- 価格:460円
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。






















