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ゆうちゃん
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ある年のクリスマスにアロヨと言う田舎町で、首無しの磔の遺体が見つかった。事件は迷宮入りしたが、半年後にロング・アイランドで同様な死体が発見される。エラリーは父親の力を借りずこの連続殺人事件を追う
国名シリーズの五作目。

今回は、ニューヨーク市中の事件ではなく、ウェスト・ヴァージニア州(本書ではウェスト・ヴァジニア州となっている)のアロヨと言う田舎町とニューヨーク州でも郊外のロング・アイランドのナッソー郡が舞台である。しかもクイーン警視はほとんど捜査に関与せず、エラリー・クイーンが、有名なクイーン警視の息子と言う立場で、ナッソー郡の警察・検察関係者と共同して事件処理に当たると言う構成になっている。

クリスマスの朝、アロヨで首のない死体が磔にされているのが見つかったのが事件のきっかけである。アロヨの小学校長アンドルー・ヴァンとその召使クリングが行方不明になっている。しかもヴァンの家には格闘した跡があり、扉には血でTと書かれていた。シカゴの警察の会議に車で父親を送り、その帰りにエラリーはこの事件に興味を持ち、父を途中から列車で帰らせアロヨに寄った。しかし、当地の警察・検察は素人であるエラリーの口出しを拒んだので、エラリーは専ら検死法廷で証人の話を聞くだけだった。証言の中で注目すべきは、事件の前夜、足を引きずって歩く男が車を借りに来たと言うガレージ屋の話と、自ら太陽神と名乗る異様な風体の男ハラーフトの証言だった。ハラーフトは神がかった男だが、自分にはクロサックと言う男がいて自分の真の信者で僧侶だと言う。そのクロサックがどうやらガレージ屋が見た足を引きずる男と同一人物らしい。クロサックは事件後行方不明になり、ハラーフトも彼の行先は知らない。検死法廷では、何者かによるヴァンの故殺と決議されたが、死体の頭部は見つからないまま、事件は迷宮入りした。
半年後の6月22日、ナッソー郡のブラッドウッドで敷物輸入商のトマス・ブラッドがやはり首を切られてトーテム・ポールに磔にされていた。彼はチェッカー・ゲームの名手で、殺された時に手にしていたらしい駒が死体の側に落ちていた。ブラッドの家の向かいのヤードリー教授はエラリーとは旧知の仲で、事件に興味を持つだろうとエラリーを手紙で呼び出した。今回は、父親のクイーン警視から十分な紹介を受け、エラリーはナッソー郡のヴォーン警視、アイシャム地方検事と一緒に捜査してゆくことになった。ブラッドの屋敷の中の田舎風の別棟サンマー・ハウスの床には血でTの字が書かれていた。そこでネプチューンの彫刻のある故人のものらしきパイプも見つかった。エラリーはアロヨの事件との類似性を指摘する。今回も死体の頭部は見つからない。ブラッドは、メガラと言う男と共同事業として敷物の商売をしているが、実際はブラッドと支配人のリンカンが事業を仕切っており、メガラは世界各地を大型ヨットで航海して回る男だった。ブラッドの死から8日後に彼の死を聞いてメガラが航海から戻った。彼の証言から、ネプチューンのパイプはブラッドの物ではなく、メガラが航海に出るときに忘れて行ったものだとわかる。そこでエラリーの鮮やかな推理により事件現場はサンマー・ハウスではなくブラッドの書斎だと判明した。そしてメガラの口から、ブラッド、ヴァン、クロサックの三人の意外な関係を聞かされる。

本シリーズがヴァン・ダインものを意識して書かれたのは有名な話だが、マンネリズムをほとんど顧慮しなかったヴァン・ダインものに比べ、国名シリーズではどうもマンネリズムからの脱却を図ったような形跡がうかがえる。そうだとすると本書がその第一弾で、ニューヨーク市中を離れ、エラリー単独で捜査し、事件の範囲も遠くシカゴまで及んでいる点がまず目新しい。事件も凄惨極まりなく、一見知的な事件でなさそうな点も異例。
だが、ミステリのプロットとしては、「フランス白粉の謎」「オランダ靴の謎」よりは一歩も二歩も劣ると言う感じ。これまでの事件のようにあらゆる手がかりが一点を指している訳ではなく、中には本筋とは関係ない、単なる目くらましになっているものも散見される。個別の解明、例えばネプチューンのパイプやチェッカーと言うゲームの跡を見てのエラリーの推理は見事であるが、それが事件全体の解決には及ばず、エラリーの最後の説明がいささかこじつけっぽい印象になっているのが残念。特に3番目の殺人についてははっきりした解明が殆んどされていないまま結末を迎えている。

なお、国名シリーズは題名と事件の内容の関連が薄いが、本書でなぜエジプトとつくかと言うと、T字型の十字架をエジプト十字架と言うからだとのこと。これにハラーフトと言うエジプトの神を名乗る狂信者が出てきて、漸く題名との整合が取れる。ヴァン・ダインの「カブトムシ殺人事件」もエジプトが主題で、クイーンは、本書を書いていて至る所にヴァン・ダインの足跡を見たと言っているが、エジプトとの関連でも、事件のプロットでも、カブトムシ殺人事件の方に軍配があがる。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1689 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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